◆光の変化とらえる
DASは、光ファイバーの中で散乱される光を利用します。 光ファイバーは透明度の高いガラスでできていますが、原子サイズで見ると、あちこちに原子の結合が不規則な「欠陥」と呼ばれる場所があります。そうした欠陥などで光信号の一部が散乱されて跳ね返り、光ファイバーを逆行して戻ってきます。 光ファイバーの一端からパルス状の光信号を出し、欠陥で反射されて戻ってくるのを観測します。遠くで反射された光ほど戻るのに時間がかかります。つまり、戻るまでの時間から、光ファイバーのどこで反射されたかが分かるのです。 地震が起きてケーブルのどこかが揺れると、光ファイバーがわずかに伸縮して、反射光が戻るまでの距離が微妙に変化し、戻ってくる光のタイミングがずれます。そのずれから伸縮の大きさが分かり、揺れの強さが計算できるのです。篠原さんによると理論的には100万分の1ミリ以下の伸縮が検知できるといい、小さな地震も捉えられます。光信号を次々に発して反射を見れば揺れの場所と大きさが刻々と分かるのです。 現在のDASの手法は2000年に考案され、セキュリティーや交通状況の把握、送電線の管理などに使われてきました。17年ごろから地震観測への応用研究が急速に進みました。 篠原さんは、5年前から岩手県釜石市沖に敷設されている地震研究所の長さ100キロあまりの光ファイバーケーブルなどでDASを地震観測に応用する実験をしています。 陸上の装置から光ファイバーに信号を出し、反射してくる光の変化を例えば2メートルごとに調べます。これは光ファイバー上に2メートル間隔で地震計を並べたのと同じです。100キロの区間なら5万台の地震計が並ぶことになります。その結果、ケーブルから100キロ程度の範囲で起こったM1.8以上の地震が捉えられると分かりました。DASで算出したMの値は、気象庁の発表値とよく合っていました。◆5万点のデータ
さらに、すでに設置されている海底地震計のデータに、DASの大量の観測データを加えて分析すると、震源の位置が2倍の精度で求められることが分かりました。ただ、5万点全部のデータを使ったわけではありませんでした。 DASの大きな課題は、皮肉ですが、取れるデータが多すぎることです。データは最終的に人が見て、地震波の形などから揺れの到達時間を判断します。5万点は多すぎて手作業で処理できず、うち100点を抽出して震源を分析しました。 「DASの活用には膨大なデータを蓄積する場所と、人工知能(AI)などを使った自動処理の技術開発が必須」と篠原さんは強調します。データをすべて生かせば、震源の場所や、動いた断層の向きなどが、これまでにない精度で求められるといいます。 通常の地震計では縦・横・高さの3方向の揺れが分かりますが、DASは光ファイバーの伸縮を読み取るので、ケーブルに沿った方向の揺れしか分かりません。「データの豊富さでその弱点は十分補える。現在の地震計と補完し合えば効果が高い」と篠原さんは話します。◆南海トラフも
DASは南海トラフ地震の研究にも役立つと期待されます。発生メカニズムに迫るには、次の南海トラフ地震が発生するまで、震源の海域で20年、30年と継続的に地震を観測することが必要です。現在も紀伊半島沖や四国沖の海底にはDONET(ドゥーネット)、DONET2(ドゥーネットツー)、N-net(エヌネット)などの地震計と津波計の観測網が置かれています。 海底に設置した計器は修理や交換が大変です。その点、DASでは海底にあるのは光ファイバーだけ。電気回路も機械部品もないので故障しにくく、長期観測に向いています。 海洋研究開発機構の荒木英一郎グループリーダーは、新しいDAS観測装置を開発しています。安定した光信号を出す装置を開発して観測の幅を広げ、南海トラフで起こるゆっくりとした低周波微動の観測に成功しました。「DASは非常に伸び代の大きい技術」と荒木さん。海底に掘った穴に光ファイバーを入れる観測も開始。岩盤のひずみも観測し、海底下の断層の動きを捉えたいといいます。東京大地震研究所の実験に使われたDAS測定装置=篠原雅尚教授提供
通信用の光ファイバーは世界のいたるところに張り巡らされています。DASに利用できれば地震観測の可能性が大きく広がります。通信と観測を両立させる技術も研究されています。このほか津波の早期検知や海底火山の観測、クジラの探索などへの応用も研究されています。
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