各地で記録的酷暑が続く一方、子どもたち世代の「とある変化」に警鐘が鳴らされている。それは「水が飲めない」ということ。理由としては、コロナ感染防止のため、学校が飲み物持参となったことや、熱中症防止でスポーツドリンクなどが推奨され、水を飲まずに育った背景などが考えられる。ネットでも、わざわざ「味のない水」を飲む必要性があるかが議論に。『ABEMA Prime』では、水が苦手な当事者と考えた。
【映像】水が飲めずに生死をさまよった女性
■「保健だより」をきっかけに発覚 クラスで2〜3人の子どもが「水が飲めない」水ジャーナリスト・橋本淳司氏は、水嫌いな子どもが増えた理由として、「水道水を飲む機会が減った」ことを挙げる。コロナ禍で学校に水筒を持参するようになり、熱中症の増加で、行政が経口補水液やスポーツドリンクの利用を推奨(文科省と環境省の熱中症対策ガイドライン作成の手引き)した。そして、生まれたときからペットボトル飲料が存在する“ペットボトルネイティブ”の世代になったことも大きいという。
体重50キロの場合、人体の6割にあたる約30リットルが水分で、1日に2.5リットルが尿や汗で排出される。この時、水分補給で必要な量は1.2リットルで、食事等でも1リットルほど補えるが、身体から1.5リットル失われると、脱水症状や熱中症になってしまう。
橋本氏が「水が飲めない人」に注目したきっかけは、1年前だった。「ある学校の保健だよりに、『熱中症気味の子に、保健室で水を出しても、口に含むくらいしか飲めない』と心配する記事があり、それを見た保護者からの相談で調査した。昨秋に幼稚園と小学校の先生50人にヒアリングしたところ、『1クラスに2〜3人、水が飲めない子がいる』」。コロナ禍や熱中症などに加えて、「家庭での水飲み習慣が、長い期間をかけて変わってきた」と推測する。
■“名水”で有名・静岡県生まれでも水が飲めない人「不意に飲み込んだら出てきてしまう」幼少期から水が飲めないリンさんは、「水を多量摂取すると、気持ち悪さと吐き気がする」と語る。「出身地の静岡県は、基本的に井戸水。キンキンに冷えていれば飲めたが、東京に来てから加速度的に飲めなくなった。炭酸水も無糖ではなく、フレーバーがついていないとダメ」だという。
自分自身に感覚過敏の傾向はあるとしながら、静岡に住んでいた頃も「クラスに飲めない子は多数いて、水道水が飲めなくて、熱中症になった子もいた」と振り返る。「不意に飲み込んだら、反射で出てきてしまう。とくに硬水は、よりまずく感じる」と体が受け付けない。
リンさんは、食事中に水分を摂りたいと思わない。学校で脱水症になり、無理して水を飲もうとして嘔吐した経験から、以降は濃い目のお茶に水道水を足して飲むようになった。また、飲み物の糖分により血糖値が上昇しがちで、慢性的に頭痛や吐き気に悩まされ、医師からは「慢性的な脱水」と言われている。水をまずく感じる理由としては、「亜鉛不足による味覚障害の可能性」との指摘もある。
■コロナ禍で水飲まず脱水→緊急入院「あと10秒通報が遅れていたら…」リンさんは脱水症状により、緊急入院した経験もある。「コロナ第1波の時に、感染ではなかったが、体調を崩して脱水を起こした。『コロナ禍だから』と4日間耐えて救急車を呼んだら、採血もできないくらい血管がしぼみ、血液検査に回せなかった。『あと10秒通報が遅れていたら…』と言われた」と、命に関わる危険があった。
水でなければ、水分摂取もできる。「常飲しているカフェオレや、アルコール飲料なら、量も飲める。脱水で入院した時に、腎臓にダメージを受けて、栄養素が流れてしまうため、『どれだけ糖分を摂っても、あなたの場合は飲んでいるだけで偉い』と言われた」というレアケースだ。
■家庭で減りつつある水を飲む習慣「味がないからダメという子がいる」「水が安く手に入るのは恵まれている」水を飲む習慣は、家庭によっても異なる。リンさんの家では「父親が甘い炭酸、母親がコーヒーを飲み、あとは地域性から水出し緑茶の3択」で、薬を服用するとき程度しか、水を飲む選択肢がなかった。「水が『飲み物』のカテゴリーで、冷蔵庫に置かれている意味がわからない。入院中も水ではなく、ノンカフェインのお茶を選んでいた」。
学校では「熱中症気味の時に、水しか用意がない」ケースも珍しくないが、橋本氏は「スポーツドリンクを持参してもいい学校が出てきている」と説明する。ただ、水については「飲まず嫌い」の子どもも存在するという。「中学生ごろから『水じゃなくてジュースくれよ』と言われるまま出し続けた母親が、子どもが37歳になったいま後悔している」といったケースも紹介した。
水は「生活のベースに存在する、一番安く手に入る飲み物」だ。「水道水は1リットル約0.2円で供給されているが、ミネラルウォーターは500倍の100円。健康上の理由がなく、水道水が飲めるのであれば、その習慣を付けた方が生きやすくなる可能性がある。体にいいものが、安く手に入る。恵まれた環境にあるなら利用した方がいい」と、蛇口をひねればいつでも水が飲める環境にあることの重要性を説いた。
■水が飲めるようになる工夫とは工夫によって、水が飲めるようになるケースもある。「サマースクールや臨海学校に、親がスポーツドリンクを持たせたが、『今回はみんなで水を飲もう』と呼びかけたところ、その子も飲めるようになった」。橋本氏の調査では「これまでは『水道水はダメだが、ペットボトルの水はOK』が半々だったが、『水道水もペットボトルも、味のない水がダメ』という子が出てきた」と、挑戦する価値はありそうだ。
水の味は、どう決まるか。「ミネラル分や二酸化炭素の量、あとは温度が重要となる。水は10〜15度が、一番おいしさを感じると言われている」。そうした水温の変化が、調査結果を左右した可能性もある。「コロナ禍で、学校の水道から直接飲めなくなり、家から水筒で持ってくるようになり、ぬるい水を飲むようになったことも理由なのではないか」。加えて、シチュエーションの影響もある。「家庭や学校で楽しく飲んだから、飲めるようになった子もいる」と加えた。
リザプロ社長の孫辰洋氏は、「嫌いな食べ物をどこまで食べさせるのかと同じだ」と指摘する。「子どもたちの感情を無視して、『健康だから』と選択肢を奪うのは、教育現場においてどうなのか。『飲めて当たり前』は絶対にダメだ」と、強制することのないように注意喚起。リンさんは「氷であれば食べられる」と語る。「食感があるからいける。氷だったら、どれくらいの量でも食べ続けられる」と述べていた。
(『ABEMA Prime』より)
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