物価高騰などの影響で、厳しい状況に置かれた飲食業界。倒産や閉店が相次ぐなか、一度は閉店に追い込まれた「街のケーキ屋さん」を復活させるべく奮闘する若きパティシエに密着した。
■長年親しまれたケーキ店が閉店…
東京、世田谷区経堂にある「七つの水仙」は1991年創業のケーキ店だが、27日をもって30年以上の歴史に幕を下ろした。 七つの水仙 店主諌山美佐子さん(70代)
「バターとか生クリームとか、他のものもそうですけど、2割くらい上がっているので、結構響きます」 帝国データバンクによると、原材料の高騰などで、街のケーキ屋さんを中心とした洋菓子店の倒産件数は今年すでに18件に上り、過去最多を更新するペースだという。 長年親しまれたケーキ店の閉店に、街の人は次のように話した。 近所に住む常連客
「母が生きていた頃に、買って帰ったりしていまして。閉店されるという話で、すごく寂しいなと思って」
店主の諌山さんは「一旦閉店するが、今後、営業日や品数を制限するなどして、またどこかでお店を開きたい」と話している。
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■再オープンに奮闘したパティシエ■再オープンに奮闘したパティシエ
こうした状況のなか、一度は閉店した街のケーキ店を復活させたパティシエがいる。原田彩夏さん(30)は、29日に東京・文京区根津にオープンした「パティスリーセレネー」を任されている。 1989年にオーナーシェフの慎次大さんが生まれ育った下町・根津に開いた「セレネー」に弟子入りした原田さんは、当時のことをこう語る。 原田さん「(修業の)最初の1〜2年は毎日泣いていました。どうしてもシェフに認められたかったし、信用してほしくて。すごくがんばりましたね」 慎次さんの信念は「地元・根津の人に美味しいケーキで幸せを届けたい」というものだった。 近所の常連客
「『セレネーさんでケーキ買ってきて。お祝い事だから』みたいな感じもありましたし、貴重な存在ですね」
「たしかコロナで他のデパートのケーキ屋さんも全部閉まっている時もやっていて。その時に、この子の(誕生日)ケーキを買ったことがあります。本当にその時も助かりました」
地元の人たちの幸せな思い出の中には、常にセレネーのケーキがあった。しかし去年9月、慎次さんが突然、事故で亡くなってしまう。
原田さん「慎次大だったらどうするかを奥様が第一優先に考えてくれたので。その時にセレネーのお客様を最後まで大事にする」 慎次さんが亡くなった2日後、残っていた材料を使い最後の営業をしたところ、お客さんから、あるお願いを受けた。 原田さん
「泣きながら入ってきてくれたお客さんとか『お店継いでください』ってお願いされて。そういうの聞いたときに、やっぱり私がやらないとだよなとか。でも、私の力でなんとかなるのかなみたいな」
一度閉店することにはなったが、原田さんは「必ずセレネーを復活させる」と決意する。ただ、老朽化した設備の入れ替えなどに1000万円以上の資金が必要だった。
悩んでいた原田さんに手を差し伸べてくれたのが、近所の店など、根津の街の人たちだった。
原田さん「セレネーを残す方法ないのかなと、すごく心配してくれて、相談に乗ってくれた時にクラウドファンディングが(案として)上がってきて。みんなで『彩一人で出来ないんだったら、みんなでセレネー残す方法を考えよう』と言っていただけて」
慎次さんの妻・亜希子さんは、街の人たちの協力について、こう語る。
亜希子さん「私とか以上にすごく『セレネーを残したい』って気持ちを持って下さっていたので、その力がすごく原田さんにとっては大きかったかなと思います」 そして、クラウドファンディングで復活資金を呼び掛けることになった。すると、街の人たちから支援が寄せられた。 支援した街の人
「クラウドファンディングもしました。絶対復活してほしかったので。ちょっとでも応援できたらと思って…」
そんな根津の人たちの思いが集まり、目標の600万円はわずか1週間で達成。結果的には、1200人あまりから1200万円以上が集まった。
あの日から10カ月、復活オープンの日を迎えた。
近所の常連客「幸せです。復活してくれて、うれしい気持ちでいっぱいなので。ぜひぜひ、また美味しいケーキを食べさせてもらえたらうれしいです」 原田さん
「やっぱり温かいお店がいいなと。地域密着の街に愛されるケーキ屋さんであり続けたいな」
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■後継者不足に悩むパティシエ業界■後継者不足に悩むパティシエ業界
今回、セレネーは復活を遂げることができたが、街のケーキ屋さんは後継者不足に悩まされている現状がある。求人サイトなどを運営する「パティシエント」によると、パティシエの離職率は1年以内が70%、3年以内が90%、そして10年以内だと99%と言われている。
離職の原因は、午前6時から午後10時までの勤務が毎日続いたり、労働時間が長くて体力が持たなかったなど、労働環境についてが一番多く、4割ほどを占めている。
原田さんは「ケーキ作りの技術を求める人が減っていて、『職人』という言葉が死語になっている。また、個人店ではプライベートが少なく、店を持ちたいという人が減っている」と話している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年7月30日放送分より)
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