◆謝罪文自体は「真摯に見えるんです」
「そのもの自体は真摯(しんし)に見えるんです。『精神的苦痛を与えてしまったことを謝罪します。誠に申し訳ありませんでした。深く反省し、再発防止に努める所存です』って」。金さんは今月2度目の弁論準備手続きがあった26日に川崎市内で開いた会見で、被告側から提訴後の4月に届いていた謝罪文を紹介した。被告側の和解提案に応じなかった理由を話す金正則さん(左から2人目)=26日、川崎市内で
被告の男性は2021年3月~今年1月、Xで「在日の金くん」と呼びかけながら「朝鮮人ってやっぱりばか。救いようがない」「君の仲間がまた凶悪な罪を犯した」などと15件の投稿をした。金さんは3月、福岡県の高校の同学年だった男性を相手取り、「ヘイト投稿」で人格権を侵害されたとして慰謝料など110万円の支払いを求め、東京地裁に提訴した。◆被告はヘイトとは認めていない
5月の第1回口頭弁論で被告側は請求棄却を求めて争う姿勢を示したが、今月10日の1回目の弁論準備手続きでは改めて「発言内容が適切でなかった」と謝罪し、和解を提案。金さん側は対応を検討し、26日の手続きで判決を求める考えを示した。 金さんは裁判所に上申書を提出した。被告が謝罪文を出した後も「また出た、朝鮮人の犯罪。止まらないね」「被差別者がなくならない限り、差別はなくならないよ。分かってる?」と投稿していることを指摘し、「謝罪文とのギャップにあぜんとする。ヘイトスピーチを繰り返す以上、私の精神的苦痛は解消されない。判決で、投稿が不当な差別的言動と認定してほしい」とした。 そもそも被告側は謝罪はしているが、投稿内容を「ヘイト」とは認めていない。在日の当事者が書いた本2冊を根拠として「在日朝鮮人の日本での犯罪に心を痛めて発信していた」と主張している。次回の9月の手続きまでに具体的な反論を示すという。◆「犯罪傾向」根拠の記載がない
金さんの会見に同席した「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」の岩下結さんはこの2冊について、「日本人の差別感情をあおる数多い『ヘイト本』の一つという印象だ。在日朝鮮人の犯罪傾向が強いとの根拠になるような記載はなく、証拠になるのか」と首をかしげた。 金さんの代理人の神原元(はじめ)弁護士も会見で、「犯罪と民族を結び付ける差別は昔からあるが、あまり意識されていない。ヘイトスピーチの典型例なのに」と問題点を指摘した。◆「社会のため」とは何か、真正面から
神原氏は、裁判所からも和解を勧められたと明かした。その背景には日本に差別禁止法がない現状があるという。「私人間の差別はすぐに違反とはならず、名誉や名誉感情の毀(き)損(そん)という従来の枠組みでの判断になる。個人のけんかに思われ、『謝っているなら和解どうでしょう』となる」とみる。 今後の訴訟について、神原氏は「人には差別されない権利がある。『人種差別そのものが違法だ』と認定してもらえるよう裁判所を説得したい」。金さんは「被告が『世の中、社会のため』と反論するなら、どちらが本当に『社会のため』なのか、真正面からぶつかるしかない。被害をしっかり訴える」と誓った。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。