◆海底には災害ごみ、漁をあきらめた船も
最終日の漁を終え、トリガイを漁港に持ち込んだ蔵谷弘さん=石川県七尾市石崎町で
「(今年の漁に)納得をしている」。6月中旬、蔵谷さんは、七尾市内の石崎漁港に約9キロのトリガイを持ち込んだ。今春から2カ月あまりの漁期を終え、ほっとした表情を見せた。 大きな地震被害が出た今年、同漁港の漁船8隻は海底にある災害ごみの清掃作業を優先し、トリガイの漁に出なかった。地元の漁師たちは体調を悪くしたり、兼業する民宿が復興関連業者の利用で忙しかったりと出漁せず、「今年は偶然、一人になった」という。 3代続く漁師の家庭に生まれ、トリガイ漁は30代の頃に始めた。「命懸け」と語る漁は、ワイヤで船とつなげた貝桁と呼ばれる道具を水深30メートルほどの海底に沈め、トリガイをかき集める。船を1時間ほど動かして貝桁を引き上げる作業を午前6時から4回ほど繰り返す。重い貝桁を引きずる船の操縦。そして貝桁を引き上げる作業に技術が必要で、作業は「船が傾くほど重い」と話す。◆養殖も盛ん「能登とり貝」のブランド
県漁協七尾支所によると、天然トリガイの今期の水揚げは約310キロ。昨年は約595キロだった。七尾湾では近年、トリガイの養殖も盛んで「能登とり貝」のブランドで知られる。 地震で災害ごみが散らばる海。「貝だけでなく、泥もごみもみんな入ってきた」。それでも「トリガイをやらせればこの辺で一番。俺にも顔がある」と一人、産地を守った自信をのぞかせた。 年を取るにつれて、かつての漁師仲間は亡くなったり、介護施設に入ったり。命あっての漁に「一日一日がありがたいと、この年になって思うようになった」と語る。来年については「今も時々目まいがあるし分からん」。ただ海には小さい貝もあり、来年に向けて成育に不安はないといい、「達者でおったらやりたいな」と前を見据えた。トリガイ 石川県七尾湾特産。身が大きく肉厚で甘みが強い。関東や関西など全国に出荷され、高級すし店などで扱われる。昨年は養殖の「能登とり貝」に過去最高の1個1万5000円の値が付き、地元漁師も「ダイヤモンド」と例えるほど。天然物は、つめ付きの桁で海底を起こしながら網に引き入れて採る。
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