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 第171回、直木賞を受賞した一穂ミチさんの発言に注目が集まった。「基本的には顔面NGでお願いしたいと思っていて、マスクが自分の中ではギリギリかなという感じだ」。一穂さんはこれまでも顔を出さずに執筆活動をしており、直木賞受賞後もそれは変わらないとした。

【映像】「信用できない…」“顔出しNG”のAIメイヤー氏に対するネットの声

 つい先日の都知事選で、白い仮面を被ったまま立候補した、実業家・AI党員のAIメイヤー氏。データ分析による少子化対策や、匿名による自由な選挙出馬などをかかげ立候補したわけだが、多くの有権者が気になったのは、顔だったようだ。「顔を隠す政治家はちょっと信用できない」「もし中の人間が入れ替わっても気づけないよ」という声が上がっている。その一方、「ルッキズムに悩む人には良い世の中だね」「顔出ししないこと自体は別に悪いことではない」との声も上がっている。顔を出す必要性はどこまであるのか。顔出しNGのリスクとメリットについて『ABEMA Prime』で考えた。

■顔出しNGで都知事選に立候補したAIメイヤー氏

 AIメイヤー氏は都知事選で顔出ししなかった理由について「妻と子どもがまず嫌がり、反対する。そして、一番の問題は、仕事をやめないと選挙に今、立候補できないことだ。一回選挙で落選した人は、この後就職活動をしてもどこも雇ってくれないと思う。つまり、選挙はプライバシーが保護されていないので、立候補者にとって非常にリスクが高いものになっている」と問題視。  また、「今、立候補できるのが働かなくても良いお金持ちか、失うものがない無敵な人の二極化が進んでいる」といい、「一番優秀な人がいるかもしれない中間層の人たちが選挙に出られないことが一番の今の政治の不信の問題。それを考えた時、プライバシー保護をして、大企業に有能な人が何十万人もいるので、その人たちの副業として選挙に出ていただくのが良いと思い、匿名でチャレンジしてみた」と語った。  実際に顔出ししなかった都知事選の効果については「得票数が2700だったので、得票という意味では全然できなかった。ただ顔出ししないで立候補できるということを、非常にいろんな人が分かってくれた。ウェブサイトから“匿名で立候補するか?”としたところ、300人以上が応募してくれて、冷やかしもあったが、100人ぐらいは匿名のまま選挙に出ることができるのではないかと思っている」

 顔出ししないで政治はできると思うか。AIメイヤー氏は「顔や名前も本来必要なく、選挙は政策討議をする場だと思っている。そこにルッキズムが入ってくるとノイズになってしまう。現に今回1位と3位の方は元キャスターだ。ルッキズムの象徴であるアナウンサー、キャスターが上位にいっているのは問題だと私は思っている」と答えた。

■顔の持つ役割=“社会的なシグナルの交信”

 大阪大学教授の中野珠実氏は「政治にも表情が重要」との考えで、アメリカの大統領選挙を引き合いに「初めてテレビ討論というのが導入されたケネディ大統領の時から、演説の言葉だけではなく、どういう表情で、どう身振り手振りで伝えているかで、選挙の当選に直結するということが分かってきている」と話す。  中野氏は著書『顔に取り憑かれた脳』で、顔の持つ役割を“社会的なシグナルの交信”と表現している。「人間は世界全体を見ているようで、実は顔のほとんどしか見ていない。その顔の中でも目を約7割、口を約2割の時間見ている。なので、目の動きや口角の上がり具合から、“この人が本当にそう思ってやっているのか”を常に推測している。逆に言うと、平安貴族がまゆげを抜いたのは、高度な社交の場において自分の心の内を読み取られないようにするため、ちょっと奇抜な化粧をしたり、仮面を被ったりした」と説明。  目と口が見えているAIメイヤー氏については「例えば、タモリさんはサングラスをかけることによって、自分の視線を悟られないことが新しいコミュニケーションや、芸になっていたりする。なので、AIメイヤーさんも逆にこれを使ってうまく自分のアイコンにしていくのもありかと思う」と述べた。

■ 「相手のことを深く知りたいと思うと、顔が見たくなる」

 直木賞を受賞した一穂ミチさんの発言が注目を集めたが、顔出しが影響する職業について、中野氏は「作品の世界観を作者のイメージで影響を与えたくない人は顔を出したくないだろうし、逆にコミュニケーションをしたい方は顔と顔で伝えたい。どういう形で作品とコミュニケーションしたいか次第。例えばAdoさんは匿名で名前が売れて、作品もすごく有名になって、そのまま匿名だと、みんな満足しきれない。そういうところが人間の面白いところ。相手のことを深く知りたいと思うと、顔が見たくなる」と話す。  作家・社会学者の鈴木涼美氏は「顔を出していると美醜ですごく批判されたり、逆に持ち上げられたり、要するに美人作家とか美人漫画家とかすぐに書かれて、すぐに“美人じゃないじゃないか”とか書かれたり。そういう思いをするから、出したくない気持ちは分かる」との見方を示す。

 一方でSNS時代における顔の重要性について中野氏は「何が本当の顔なのか、加工しすぎていて分からなくなってきている時代だ。そういう意味で、バーチャルな世界やSNSの世界で顔が果たす役割はだんだん薄れてきている。信頼性がない情報に対して、価値を求めなくなってくると思うので、もう少し言葉などが重視されるかもしれない。逆に、リアルのときは顔を知りたいと顔と顔でコミュニケーションする、リアルの価値が一方で増していくと思っている」と答えた。

 さらに「表情と表情でコミュニケーションして共感したときに、一緒に喜びを分かち合う、感情と感情をぶつけ合って共感し合うところなので、そこに人間は一番楽しさや喜び、幸福を見出すものだと思う」とした。(『ABEMA Prime』より)

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