高知・安芸市の漁業協同組合の副組合長が、漁協の収益となる市の委託金の一部を着服していたことが発覚。漁協に対し、副組合長は着服を認め謝罪した。警察は業務上横領の疑いで捜査している。
高知さんさんテレビはこの事案を2カ月半にわたり独自取材。委託事業を利用した不正の実態のスクープだ。
副組合長が“委託金の余り”を…
シラス漁が盛んな安芸市。安芸漁業協同組合は市からの委託で毎年、漁礁を設置する事業を請け負っている。
この記事の画像(24枚)漁礁は、良い漁場を整備するため浮きにロープを結びつけ、木の枝を沈めて作る魚の隠れ家だ。
その年の事業に必要な資材は、職員が購入した後、写真を撮影し市に報告しなければならない。しかし、その報告書に事実と異なる内容があった。
安芸漁協が市に提出した令和3年度(2021年度)の委託事業完了の報告書には、使用したとする資材の写真を添付している。
しかし、一部写真とは異なる、より安い別の資材を使っていた。
ーーこの中で購入していないのは?
安芸漁協・事務員:
購入していないのは×をつけたこれとこれ、これ
ーー購入したように見せかけて市に提出した?
そうです。写真を毎年撮って提出している
これにより捻出した“委託金の余り”は年間数十万円に上り、漁協の収益になる。しかし、この金は副組合長が毎年、職員から手渡しで受け取っていたという。
この漁礁設置事業は「ヨコつけ」とも呼ばれ、事務員は副組合長に流れた金を記録したウラ帳簿を毎年、作成していた。
安芸漁協・事務員:
(令和5年度)ヨコの契約で入る金が118万8000円。それから実際に買った資材、人件費、弁当代とかを引いて残りがこれ。この紙(ウラ帳簿)のコピーと現金を(副組合長に)渡していた。毎年です
過去10年分のウラ帳簿。副組合長が着服した漁協の収益は、10年で総額318万9534円に上る。
「副組合長に流れる金は不正という認識があったか」と尋ねると、事務員は「おかしいなと思いながらも圧力というか、前からの慣例でもあり、(副組合長に)言うことができなかった」と語った。
悪しき慣習を断つ 若い職員が告発
職員の松田叶夢さん(22)は漁協に入って1年目の2023年10月、ウラ帳簿の存在を知り不正に気づいた。
安芸漁協・松田叶夢さん:
見積書とウラ帳簿を見せてもらって、これおかしいと気づいた
ーー不正を知ったときはどういう気持ち?
安芸漁協・松田叶夢さん:
許せない。(委託金も)税金から出ているので、個人のものにしてしまうのは許されないこと。怒りが強かった
漁協に根付く悪しき慣習を断ち切りたいと、松田さんは不正を内部告発した。
安芸漁協・松田叶夢さん:
ちゃんときれいに仕事をして、当たり前のことなので。当たり前じゃないことが起こっているのをそのまま知らんふりしているのは嫌なので、公にしました
松田さんの告発を受け、上司も警察に相談することを決めた。
安芸漁協・松田さんの上司:
今まで声を上げられなかったのを反省する。自分たちの罪になってでも不正を明らかにしたいという若い職員の思いもあり
上司らも「このままではいけない」
1月30日午前7時、上司と事務員が、警察に証拠として持っていくウラ帳簿などの書類を準備していた。
安芸漁協・事務員:
怖い気持ちはある。でも、このままではいけないという思いの方が強かったので
午前8時、松田さんの上司が警察に「横領事案で、もうちょっとしてからそこへ行きたいがいいですかね?」と電話した。
漁協に在職して35年という上司。副組合長による委託金の余りの着服は前の副組合長の頃から20年以上続いてきたと話す。
ーーどうしてみんな副組合長に不正をやめろと言えなかった?
安芸漁協・松田さんの上司:
今回の件は、ずーっと続いてきた慣例的なことがあったのと、報復というか、何をされるか分からないので言えなかった。勇気がなかった
そして松田さんの上司は、「不正を正すという意味で頑張りたい」と語った。
安芸漁協・松田叶夢さん:
やっぱり悪いものは悪い。裁かれるべきは裁かれる。なので負けない。しっかり正していきたい
午前9時、職員3人は安芸警察署に被害を相談。県警は、業務上横領の疑いで副組合長から任意での事情聴取を始め捜査している。
臨時総会で副組合長を「除名処分」
高知さんさんテレビは3月、着服について副組合長を直撃した。
副組合長は、令和5年度事業の委託金の余り約36万を受け取ったと認めた一方で、詳細については「警察に話してから」として答えなかった。
その後、副組合長は安芸漁協の通常総会に出席。組合員の漁師に対し、漁礁設置事業に伴う余った委託金の着服を認め謝罪した。
安芸漁協・副組合長:
僕から報告しないといけないことがある。釣り組で毎年、ヨコの漁礁をやっていたが、やった後の余ったお金を僕は1人でもらっていた。それらも警察沙汰になったということで横領したということになった
安芸漁協は4月21日、臨時総会を開き、副組合長の除名処分を決定した。
委託事業で余った金について安芸市は、「漁礁の設置が完了していれば、企業努力による利益であり問題ない」としている。一方、実際には使っていない資材の写真を市への報告書に使用したことなどについては、「現時点でコメントできない」としている。
若者の思いを受け…ベテランも決起
【取材後記】
この不正のポイントは2つある。
1つは、副組合長により長きにわたり受け継がれた委託事業を利用した着服であるということ。2つ目は、副組合長の不正を黙認してきた漁協の体質だ。
しかし、「これはいけない」とZ世代、22歳の松田さんが声を上げた。「悪いものは悪い」、若者の力強い思いが伝わりベテランが立ち上がった。
上司と事務員は「次の世代に漁協の不正体質を受け継がせてはいけない」という思いで取材に応じ、自分たちの悪いところもすべてを打ち明けて警察に被害を相談した。
委託事業は税金が使われている。再び同じような不正を生み出さないために、安芸漁協は今、信頼回復に向けた改革の時を迎えている。
取材・玉井新平キャスター
(高知さんさんテレビ)
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