24日は土用の丑(うし)の日。風物詩のウナギは今年も、稚魚の不漁などで価格が高騰している。代表的な食材のニホンウナギは天然物が激減し、絶滅危惧種に指定されている。打開策として模索されている完全養殖の技術はどこまで進んだのか。持続可能性をもったウナギの味わい方はあるのか。(森本智之)

◆かば焼きは過去10年で最高値

 100グラム当たり1468円。総務省によると、東京23区での6月のウナギのかば焼きの小売価格は昨年の同じ時期を13円上回り、過去10年で最高値となった。

「土用の丑の日」に香ばしくやきあげられるウナギ=2023年、東京都目黒区で

 背景には稚魚のシラスウナギの減少がある。国内で流通するウナギのほとんどは養殖物だ。親のウナギが日本から南へ約2000キロ離れたマリアナ諸島近海で産卵。その卵からふ化して日本に戻ってきた天然の稚魚を捕まえ、成魚になるまで半年~1年、養殖場で育てる。

◆漁獲量は20年前の3分の1以下

 水産庁によると、昨年秋から今春にかけての今漁期の漁獲量は7トン。20年前の3分の1以下だ。この結果、同時期の稚魚の取引価格は1キロ当たり250万円となり「過去最高レベルで高止まりしている」(水産庁の担当者)。中国などから輸入される稚魚も不漁や円安で値上がりしている。  ウナギの生態は未解明な点が多く、稚魚減少の理由もはっきりわからないが、乱獲などが指摘されている。国際自然保護連合(IUCN)は2014年、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定した。  窮地を救う切り札として国が研究を進めるのが、卵を人工的にふ化させてウナギを育てる「完全養殖」だ。国は50年度までに養殖業者に供給する全ての稚魚を人工飼育とすることを目指している。

◆技術的には成功も…

 技術的には既に成功しているものの、難点はコスト。水産庁は今月4日、稚魚1匹当たりの経費は約1800円(23年度)で、3年で半減させたと発表した。だが、それでも天然物(180~600円)と比べると、大幅に高額だ。  理由は、育てるのに手間暇かかること。稚魚に育てるまでニホンウナギは250日ほどかかり、マダイ(50日)などと比べてかなり長い。餌にはサメの卵が良いことが分かったが、希少で高価なため、ニワトリの卵を使った代わりの餌を研究している。また、餌やりは1日5回に及ぶ。さらに、稚魚になるまでは天然物が過ごす外洋のようなきれいな水質が必要で、毎日、水槽の水を入れ替える必要がある。

出荷ピークを迎えた愛知県の一色産ウナギ=愛知県西尾市で

 国は当面の目標として生産コストを1匹1000円に設定する。水産庁の担当者は「天然の稚魚と比べ、数百円差。これくらいの価格の上乗せでかば焼きが食べられるなら、消費者にも受け入れてもらえるのでは」と期待する。育てやすい品種への改良や自動餌やり機の開発も進めるという。  完全養殖ウナギが食卓に上るのはいつか。尋ねると、担当者は昨今の燃料費など物価高にも触れつつ「難しい質問です。50年までに達成しなければならないが、ハードルはすごく高い」。

◆「土用丑の日」集中を改めるべきか

 こうした動きの中、ジャーナリストの井出留美さんは「土用の丑の日に消費が集中する商売のあり方を改めるべきだ」と提言する。「この時期に大量に出荷するため、稚魚が集中的に捕られる。『売らんかな』主義で密猟まで起きている」  井出さんによると、名古屋市などの一部のウナギ店では、消費の集中の問題を提起するため、あえて土用の丑の日に休業する店がある。「『日本では水面にいる稚魚だけを手ですくって捕まえ、下にいる稚魚は逃がしてきた』と店主から聞いた。もうかるから過剰に捕る人が出てくる。ウナギは大量販売のものではなく、高くても専門店でじっくりかみしめて大切に食べるのがまっとうではないか」 

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