亡くなった河本千奈ちゃん(遺族提供)
牧之原園児バス置き去り死亡事件 2022年9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスで、園児の河本千奈ちゃんが置き去りにされて熱射病で死亡した。県警は同年12月、バスを運転していた当時の園長増田立義被告ら4人を業務上過失致死容疑で書類送検した。増田被告は事件時、幼稚園を運営する榛原学園の理事長だった。静岡地検は23年11月、増田被告と元クラス担任の西原亜子被告を在宅起訴。ほか2人は不起訴とした。
◆苦しみ、怒り…父親は法廷で証言へ
千奈ちゃんが亡くなった後、遺族の人生は一変した。父親は「次女がイヤイヤ期。『ギャー』と泣くと妻はフラッシュバックしてしまう。バスに取り残された千奈はこんなふうに泣いていたんだろうって、取り乱してしまう」と明かす。事件から1年半が経過し、風化も懸念する。「世間では過去の事件になりつつあるが、僕たちは現在も苦しんでいる」 父親は被害者参加制度を使い、法廷で心情を語る予定だ。「私も妻も千奈に『助けてあげられなくてごめんなさい』という気持ちで生きていくと思う。どれだけ遺族が苦しんでいるか、どれほど強い怒りを持ってるか」。被告に直接ぶつけたいと考えている。◆「正面から向き合い、自分の言葉で答えて」
21年7月に福岡県中間(なかま)市の保育園で倉掛冬生(とうま)ちゃん=当時(5)=が送迎バスに置き去りにされて死亡した事件では、福岡地裁が22年11月、当時の園長に禁錮2年、執行猶予3年、降車補助をした保育士に禁錮1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。 父親は今年3月、X(旧ツイッター)に「結局、裁判で私達夫婦が望む判決は出ないので落胆するだけ」と投稿した。実刑判決で罪を償ってほしいと思いながらも、かなわないかもしれないという懸念からの投稿だったという。 せめてもの願いは、両被告が正面から裁判に向き合うことだ。「千奈がどんな気持ちで亡くなったのか、私たちがどういう気持ちでいると思うのか、聞いてみたい。弁護士の用意した言葉ではなく、自分の言葉で答えてほしい」◆まだ安全管理マニュアルを見ない職員も
川崎幼稚園の事件を受け、国や静岡県は再発防止策として、乗降時の人数確認を徹底するなど通園バスの安全管理強化を進める。 事件は、バスを運転していた当時の園長らが園に到着後、バス内に残っていた河本千奈ちゃんに気付かなかったことに端を発する。政府は2023年度から、車両乗降時の子どもの所在確認と車両への安全装置設置を義務化した。 県によると、送迎用車両を運行する県内全247の教育・保育施設が、今年3月末までに設置を完了するとしており、県が現在、確認を進めている。 県は事件後、車両送迎に特化した独自の安全管理指針を策定し、運転手や同乗職員らの安全確認の役割を明記した。各園には指針をもとにした安全管理マニュアルの作成を求めた。 23年度には県職員が抜き打ち監査し、乗降時の人数確認手順などをチェック。県福祉指導課の担当者は「手順などに問題は見られなかった」とする一方「マニュアルを見ていない人もいた。マニュアルを各教室に置くなどして、いつでも確認できる状態にしてほしい」と求めた。(足達優人) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。