兵庫県朝来市の山あいにある幼稚園だった建物で、トラフグの養殖が進んでいる。閉園となり黒板がそのまま残った教室に巨大な水槽が置かれ、ふっくらしたフグが悠々と泳ぐ。養殖に取り組むのは魚好きが高じて「脱サラ」した男性で、遊休施設の活用を模索する市と思いが一致。安い賃料で借りた建物で単価の高いフグを育て、新たな特産品にするのが目標だ。(共同通信=岩崎真夕)
「弾力があり、かめばかむほど味が出る」「臭みがなく、しゃぶしゃぶにしてもおいしい」。県内の旅館関係者らが集まった6月の試食会では、旧園舎で育った「但馬とらふぐ」の刺し身や唐揚げに高評価が相次いだ。
稚魚から育ててきたのは「朝来食品」の中村峻さん(40)=京都府福知山市。「魚を見るのも食べるのも好き」で、大手精密機器メーカーで関東地方の営業担当だった2020年、陸上養殖の取り組みを紹介するニュースを見て起業を決意した。フグの一大消費地・大阪に近く、出身地でもある兵庫県内で候補地を探したところ、朝来市から旧幼稚園2カ所の活用を提案された。
養殖は人工海水を浄化して再利用する閉鎖循環式を採用した。水温や水流などを調節でき、成育に適した環境を整えやすいメリットがあり、排水もほとんどなく環境に優しいのが特徴だ。
2022年8月、旧園舎を改修して構えた六つの水槽に約2400匹の稚魚を放したが、飼育は甘くなかった。
水質管理の技術不足や停電によるシステムダウンのため数カ月で全滅。諦めず大学や水産試験場を訪ねて浄化槽や餌の改良を重ねた結果、2023年に投入した稚魚は出荷に適した800グラムを超えるようになった。今年6月から旅館や飲食店で試験販売している。
「いろいろな技術を取り入れて安定出荷を目指し、但馬地域のブランドとして浸透させたい」と中村さん。市経済振興課の長野禎裕課長補佐(45)は「遊休施設を地域活性化に活用してもらえてありがたい」と歓迎し、安定供給が見込めれば、ふるさと納税の返礼品になると期待している。
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