世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る11日の最高裁判決は、元信者が署名押印した「返金や賠償を求めない」との念書を「無効」とした上で、どのような献金勧誘が違法となるか初めて判断基準を示した。これまで泣き寝入りを強いられてきた元信者らが被害回復を求めて提訴する動きが広がる可能性もある。

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最高裁が今回初めて判断枠組みを示したのは▽裁判に訴えることを放棄させる内容の合意の有効性▽宗教団体による献金勧誘の違法性――の2点だ。

ひとつ目については、提訴しないことを約束させることは「裁判を受ける権利を制約するもので、有効性は慎重に判断すべきだ」と指摘し、当事者の属性やその関係性、合意に至った経緯、当事者が被る不利益の大きさなど多数の要素を総合的に考慮すべきだとした。

その上で元信者だった原告女性の母親が結んだ念書の有効性を検討。念書の作成時点で86歳と高齢で半年後に認知症と診断されたことなどから「冷静な判断が困難な状態だった」と認定。合理的な判断が困難な状態の母親に一方的に大きな不利益を与えるものだったとして「公序良俗違反で無効」と結論付けた。

もう一つの宗教団体による献金勧誘の違法性については、献金勧誘そのものは宗教活動の一環として許容されており、「ただちに違法と評価されない」とした。

ただ、勧誘の仕方や献金額などによっては寄付者に不当な不利益を与える可能性があるとし、▽適切な判断ができない事情の有無やその程度▽献金で本人やその親族の生活の維持が支障が出たか否かやその程度――などを総合的に考慮した結果、「社会通念上相当な範囲を逸脱すると認められる場合には、違法と評価されるのが相当」との判断を示した。判断に当たっては寄付者の属性や家庭環境、献金の目的や額などを多角的に検討する必要があるとした。

こうした点を踏まえると、原告女性の母親は1億円超を献金し、所有する土地を売却してまで献金を続けており、勧誘行為の違法性について多角的な観点から慎重に判断すべきだったと指摘。下級審の検討内容では不十分とし、高裁で審理をやり直すべきだと結論付けた。裁判官5人全員一致の判断。

今回の勧誘の違法性に関わる判断枠組みは信者個人の勧誘行為にのみ当てはまるもので、教団の法的責任への言及はなかった。今後、東京高裁が①母親を勧誘した信者の行為の違法性②教団の組織的関与――について改めて検討し直すことになる。

上告審で教団側は念書は母親が自らの意思で署名押印したもので有効だと反論。勧誘の違法性を裏付ける証拠は一切ないとして上告棄却を求めていた。

最高裁が示した判断枠組みは、教団の高額献金問題を受けて2023年1月に施行された不当寄付勧誘防止法の趣旨に沿ったものといえる。

ただ、多くの信者は同法が成立する以前から長年にわたって献金を続けている。同じように賠償や返金を求める権利を放棄する念書の存在を理由に返金を求めたり、提訴に踏み切ったりできない人も少なくなかったとみられる。

消費者庁によると、安倍晋三元首相が銃撃され死亡した22年7月以降、教団に関する相談が急増。22〜23年度の間に計730件の相談が寄せられた。最高裁が念書を初めて無効と判断したことで被害救済に道を開いた。

違法な勧誘の線引きも示されたため、訴訟を起こすか迷っていた被害者らの背中を押すことも考えられる。さらに高裁での差し戻し審で勧誘の違法性が認められれば、集団訴訟などさらに被害救済を求める動きが活発化する可能性もある。

消費者庁の霊感商法対策検討会で座長を務めた東京大の河上正二名誉教授は念書を無効とした今回の最高裁判断について「心理的な支配を受けていた人は多く、同じようなケースで締結されたものが無効になる可能性が開かれた」と指摘した。

その上で「宗教団体側は今後、献金の目的や生活状況などを見極める必要があり、勧誘に慎重にならざるを得ない」と語った。

1億円超献金「生活に支障」、解散命令の審理に影響も

最高裁は11日の判決で、原告女性の母親の献金状況を「態様が異例のもの」と言明した。母親は2005年以降、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側に1億円超を献金。所有する土地を売り、その売却益の管理を教団側に任せて生活費を得ていたという。

「生活の維持に無視しがたい影響を及ぼす程度」の献金は教団側の勧誘や関与によるとも指摘。最高裁は信者の勧誘が違法であったとにじませた。差し戻し審では、行為そのものの違法性に加え、教団が組織として関与していたかどうかが大きな焦点となる。

東京地裁では宗教法人法に基づく解散命令の可否を判断する裁判も進む。同法では「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」などがあった場合、裁判所が解散させられると定める。

文部科学省は2023年10月、同法上の質問権行使で集めた資料の分析などから、教団側の違法行為が解散命令に該当する3要件「組織性、悪質性、継続性」を満たすと判断。地裁に審理を委ねた。

同省によると、教団信者らの不法行為を認めた民事判決は32件あり、請求の柱のひとつになった。差し戻し審で教団側の法的責任が認められれば1件増えることになる。さらに教団による違法勧誘への関与が認定された場合、「組織性」に踏み込んだ判断となる。解散命令を巡る審理に影響を与える可能性がある。

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