世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への高額献金をめぐり、「献金の返還は求めない」などとした「念書」を無効とした11日の最高裁判決の要旨は次の通り。

  • 旧統一教会の「念書」の実態は 元信者「署名を断るのは難しい」

 【念書の有効性】

 裁判所に訴えを提起しないとする私人間の念書は、効力を一律に否定すべきではない。だが、裁判を受ける権利(憲法32条)を制約するため、有効性は慎重に判断すべきだ。

 こうした念書が公序良俗に反して無効になるかどうかは、当事者の属性や相互の関係、念書の経緯、趣旨および目的、念書の対象となる権利や法律関係の性質、当事者が受ける不利益の程度、その他諸般の事情を総合考慮して決めるべきだ。

 本件で、上告人の母親は念書の作成時、86歳という高齢の単身者で、その約半年後にはアルツハイマー型認知症によって成年後見相当と診断された。念書作成までの約10年間、旧統一教会の教理に従い、1億円を超える多額の献金を行い、多数回渡韓して儀式に参加するなど、教団の心理的な影響の下にあった。教団からの提案の利害得失を踏まえ、その当否を冷静に判断することが困難な状態だった。

 教団の信者らは、母親が上告人に献金の事実を明かしたことを知った後に念書の文案を作成し、公証人役場での認証の手続きにも同行し、母親の意思を確認する様子をビデオ撮影するなどした。念書は、終始教団の信者らの主導の下に作成されたものだ。念書の内容も、多額の献金について何らの見返りもなく、無条件に損害賠償請求などに関する訴えを一切提起しないというものだ。勧誘行為による損害回復の手段を封じる結果を招く。献金額に照らせば、母親が受ける不利益の程度は大きい。

 念書は、合理的な判断が困難な状態にあることを利用して、母親に一方的に大きな不利益を与えるものだった。公序良俗に反し、無効だ。

 【勧誘行為の違法性】

 宗教団体やその信者が、献金をするよう他者に勧誘することは、宗教活動の一環として許容され、直ちに違法とは評価されない。勧誘の態様や献金額などの事情によっては、寄付者の自由な意思決定が阻害された状態でされる可能性があり、寄付者に不当な不利益を与える結果になる可能性がある。

 そうすると、宗教団体などは、勧誘にあたり、献金をしないことによる害悪を告知して不安をあおるような行為をしてはならないことはもちろん、寄付者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥ることがないようにすることや、献金により寄付者やその親族などの生活の維持を困難にすることがないように十分に配慮することが求められる。

 以上を踏まえると、献金勧誘行為は、寄付者が献金をするかどうかについて適切な判断をすることに支障が生じるなどした事情の有無やその程度、献金によって寄付者または配偶者らの生活の維持に支障が生ずるなどした事情の有無やその程度、勧誘に関連するその他の諸事情を総合的に考慮した結果、勧誘のあり方として社会通念上相当な範囲を逸脱すると認められる場合には、違法と評価されると解するのが相当だ。

 この判断にあたっては、勧誘に用いられた言辞や勧誘の態様だけでなく、寄付者の属性、家庭環境、入信の経緯やその後の宗教団体との関わり方、献金の経緯、目的、額や原資、寄付者や配偶者らの資産や生活の状況などについて、多角的な観点から検討することが求められる。

 本件で母親は、献金当時80歳前後という高齢で、種々の身内の不幸を抱えていた。加齢による判断能力の低下が生じていたり、心情的に不安定になりやすかったりした可能性がある。

 2005年以降、1億円を超える多額の献金を行い、08年以降は土地を売却してまで献金をした。信徒会を通じてさらに献金を行い、信徒会から生活費の交付を受けていた。このような献金の態様は異例と評しうるだけでなく、献金の額は一般的にいえば、母親の将来の生活の維持に無視しがたい影響を及ぼす程度のものだった。献金をめぐる一連の行為や念書作成は、いずれも教団の信者らによる勧誘や関与を受けて行われた。

 原審は、教団の信者らが勧誘行為で具体的な害悪を告知したとは認められず、一部で害悪の告知があったとしても母親の自由な意思が阻害されたとは認められず、母親が資産や生活の状況に照らして過大に献金したとは認められないとして、考慮すべき事情の一部を個別に取り上げて検討するのみで勧誘行為が違法とは言えないと判断した。

 各事情の有無やその程度を踏まえつつ、これらを総合的に考慮したうえで、勧誘行為が社会通念上相当な範囲を逸脱するといえるかについて検討するという判断枠組みをとっていない。原審の判断には、献金勧誘行為の違法性に関する法令の解釈運用を誤った結果、判断枠組みに基づく審理を尽くさなかった違法がある。

 【結論】

 原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違法がある。原判決中、不服申し立ての範囲である部分は破棄を免れない。教団らの不法行為責任の有無などについてさらに審理を尽くさせるため、上記部分につき原審に差し戻す。(森下裕介)

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