能登半島地震は発生から半年が過ぎました。海底活断層群が次々と動いたという地震の概要は明らかになりましたが、細部には未解明の問題が残ります。これまでの調査などから、想定していなかったタイプの「断層の連動」が起こった可能性が出てきています。また半島の北東沖では、他の場所では見られない深さで群発的に余震が起きています。これらの謎に迫る研究が進められています。 (榊原智康)  政府の地震調査委員会の評価によると、能登半島地震では半島北側の沿岸部などの複数の断層が連動し、震源断層は約150キロに及びました。メカニズムは断層上側の地盤が下側に乗り上げる逆断層型で、震源(石川県珠洲市の地下約15キロ)から北東と南西の両側に破壊が進行したことが分かっています。

◆解析

 今回の震源域では、活断層が動いた場合に起こる地震や津波の程度を予測する「断層モデル」が複数作られていました。そのうちの一つが、文部科学省の「日本海地震・津波調査プロジェクト」で2015年に示されたものです。  東京大地震研究所の佐竹健治名誉教授(地震学)らは観測された津波波形の解析から、このモデルを用いて断層がどう動いたかを調べました。半島北側沿岸部などの「NT4」「NT5」「NT6」「NT8」の四つの断層が連動し、より佐渡島に近い「NT3」「NT2」はほとんど動かなかったと推定しました。  一方、海洋研究開発機構(海洋機構)などのチームは、同機構の学術研究船「白鳳丸」で1~2月にかけて調査航海を実施しました。半島先端の東方から佐渡島西方沖にかけて海底地震計を沈め、余震の発生状況を詳しく解析しました。一般的に、大地震では余震の震源分布が震源断層の広がりにほぼ対応すると考えられています。  チームの篠原雅尚・東大地震研教授(海底地震学)は余震分布の状況から「NT3は本震時に壊れたのではないか」とみます。最も北東寄りのNT2については余震が一部で起きているものの、NT3側に余震が少ない「空白域」があることなどから割れ残ったとみます。  半島北側沿岸から続くNT8、6~4は南東に傾斜している一方、NT3と2は逆向きの北西に傾いています。「断層の破壊が西側から進んでも、傾斜が異なるNT3のところで止まると思っていた」と篠原さんは話します。

◆想定外

 断層モデルとしては、日本海地震・津波調査プロジェクトとは別に、国土交通省などによる「日本海における大規模地震に関する調査検討会」が14年に示したものもあります。  これは、東日本大震災後の11年12月施行の「津波防災地域づくりに関する法律」に基づき、日本海沿岸で最大規模の津波を推定するために作られました。できるだけ断層を長くつなげているのが特徴で、F1~F60までナンバーが振られています。このモデルは、日本海側の道府県の多くが津波などの被害想定を作るのに活用しています。  能登半島付近のモデルではNT4~6がF43、NT2、3がF42に相当します。F43とF42は隣接していても傾斜が逆向きのため、連動しないと想定されていました。同様な理由で、連動を想定していないケースは能登半島付近以外にも日本海側で複数あります。断層の連動状況がよりはっきりすれば、想定の見直し議論が高まる可能性があります。  篠原さんは、1993年の北海道南西沖地震など傾斜が異なる断層が連動したとされるケースはあるものの事例が少ないと説明。「どれぐらいの確率で、このような連動が起こり得るのか研究を深める必要がある」と強調します。

◆地下構造

海洋研究開発機構の学術研究船「白鳳丸」=海洋機構提供

 白鳳丸の調査航海での解析から、余震の震源は半島沿岸付近では深さ約10キロまでにとどまるのに対し、北東沖のNT2内の一部では深さ約15キロと、より深部で群発的に起こっていることが分かりました。  本震の前に珠洲市の直下で起きていた群発地震も同程度の深さで起こっており、海洋機構の藤江剛・地震発生帯研究センター長は「類似性が気になる」と言います。  海洋機構などは6月、再び白鳳丸で調査航海を行い、NT2の領域に計60台の海底地震計を新たに設置しました。今回は余震分布だけでなく、海底下の深い部分の地下構造を調べます。  8月末から、エアガンを利用して高圧空気の人工地震波を船から送り、海底下でどのように反射して戻ってくるかを地震計で測定します。10月に地震計を回収して解析を進めます。  藤江さんは、深い場所での地震について、本震の引き金になったとされる水などの「流体」が関与している可能性もあると指摘。「地下構造を調べることで、深い場所での地震と、想定している断層面との関係を明確にしたい。観測結果に基づき、断層の傾斜や最大深度を見積もれれば、割れ残ったとみられる場所で地震が起きた場合の危険性評価の信頼性を高めることができる」と話します。


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