福岡市で独立系書店「ブックスキューブリック」を営む大井実さん(63)は約16年前、2店舗目の箱崎店開業とともに、著者を招いたトークイベントを始めた。直接声を聞く貴重な機会が得られ、じわりと人気が広がり、今年6月までに開催320回を超えた。買うだけにとどまらない書店を詩人の谷川俊太郎さんは「本のライブハウス」と表現した。
今年2月、箱崎店2階のカフェ兼イベントスペースに、東日本大震災の経験を基にした「魂にふれる」など多数の著作がある新潟県出身の批評家若松英輔さんを招いた。約60人が間近で語る若松さんの言葉に熱心に耳を傾けた。
新刊の刊行に合わせ、これまで谷川さんのほか、生物学者福岡伸一さん、作家平野啓一郎さんら著名な書き手が訪れた。
大井さんが司会役になり、執筆の動機から、幼少期の経験や出会いまで根掘り葉掘り質問する。「本の紹介にとどまらず人間を掘り下げたい」。参加者が直接、著者に質問することもある。
地方で著者と近い距離で対面できる場は多くない。出版不況が叫ばれる中「空気感、体感」を重視する対面イベントが好評を得ていることについて「文化的なものを体感したいという『飢え』がある」と指摘する。
うまく場が「温まる」と、参加者が前のめりになり、うなずきが多くなるという。五感で感じ、強く記憶に残る。
参加費を取り、遠方から来る著者には謝礼や交通費を可能な限り渡す。地方まで来てもらう費用を参加者が出し合う格好だ。本の販売増につながることも少なくない。
15年余りイベントを続けているが「全く飽きない」。今後はテーマを設定し、連続講座のような形での開催も検討中だ。(共同通信=安達千李)
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