科学技術振興機構(JST)は5日、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドの2023年度の運用実績を発表した。株式の配当や確定した損益を合算した損益計算書上の当期利益は1167億円の黒字で、22年度比で424億円増えた。評価損益を含む運用成績は9934億円のプラスと、22年度(604億円のマイナス)からプラス転換した。

ファンドは運用益による支援によって、世界最高水準の研究大学をつくることを目指す。好調な運用が続けば、大学の競争力強化に向けた支援に弾みがつく。

年度を通じた運用実績の公表は22年度分に続いて2度目。22年度は政府による資金投入が終わっていなかったため、23年度は10兆円での運用が始まった初年度に当たる。

日米の主要株価指数が最高値を更新するなど記録的な上昇相場の中で、株式の運用が好調だった。急激な円安進行による為替差益も収益を押し上げた。

資産別に見ると、米国や日本を含む「グローバル株式」が収益の8割(7749億円)を占めた。前年度は1263億円のマイナスだった「グローバル債券」は1902億円のプラスに転換。不動産や未公開株などオルタナティブ(代替)資産への投資は283億円のプラスだった。

ファンドの支援対象となる「国際卓越研究大学」について、文部科学省は6月、東北大が認定基準を満たしたと発表した。東北大は改正国立大学法人法に基づく合議体「運営方針会議」を今後設置し、「体制強化計画」を決議。文科相が計画を認可し、正式に支援第1号となる。

卓越大には外部資金収入の直近5年の平均額などを加味した金額が助成される。文科省によると、東北大には関係府省の会議を経て、24年度に100億円程度を支援する見込みだ。

卓越大は段階的に数校が選ばれる。ファンドの運用益の目標は年3000億円。JSTは市場環境が悪化した場合に備え、2年分の支援額を想定した6000億円の積み立てを行う。

ファンドの運用ルールでは、6000億円に到達するまでは、大学への助成に充てられるのは積み立てに当期利益を加えた額の3分の1程度とされている。23年度は当期利益に22年度の積み立て(681億円)を加えると1848億円で、拠出できる額は600億円程度となる。

同省は2度目の公募を24年度中に始める考えで、東京大や筑波大、東京工業大と東京医科歯科大が10月に統合して誕生する東京科学大などが申請に意欲を示している。初年度の財源は確保したが、対象校に応じて助成額も増えるため、今後も高収益を出すことが求められる。

政府の資料によると、米ハーバード大の19年の収入は約6000億円で、東大(約1900億円)の3倍。世界の有力大との差は大きく、研究力の向上や人材確保に向けた資金力の強化が課題になってきた。

JSTは23年度までは初期段階と位置づけており、目標達成に向け今後はオルタナティブ資産への投資やアクティブ(積極)運用を本格化する。JST担当者は「大学の計画に影響を与えずに確実に助成できることが重要だ。一喜一憂することなく、コンスタントに収益を出すことに努める」としている。

BNPパリバ証券の中空麻奈グローバルマーケット統括本部副会長は「助成を受ける大学側は資金を生かして、いかに競争力強化につながるアウトプットを出せるかが大切になる」と話した。

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