3倍以上の価格差 生産コストが課題
ニホンウナギ 漁獲量は減少
ニホンウナギ 生態は
2010年 完全養殖に成功 世界初
報告会は、ニホンウナギの完全養殖の実用化に向けた最新の研究について知ってもらおうと、水産庁が開きました。ニホンウナギは、絶滅危惧種に指定されるなど資源の保護が課題となっていますが、14年前、国の研究機関が卵を人工ふ化させて育てたウナギを親にして、さらにその卵をふ化させる完全養殖に世界で初めて成功し、実用化に向けた研究開発が進められています。
4日は、実際に完全養殖の技術で育てられたウナギの稚魚、シラスウナギが入った水槽が展示され、研究者が最新の成果を紹介しました。
そして、卵をふ化させるところから育てあげたウナギと天然の稚魚を育てた通常の養殖のウナギをそれぞれかば焼きにして関係者向けの試食が行われ、坂本農林水産大臣も参加しました。
坂本農林水産相「ふわふわでおいしいです。通常の養殖のウナギと比べても全く味は変わりません。まだウナギは高級食材なので、手ごろな値段で食べられるようにしてもらいたい」
水産庁によりますとウナギを卵から育てる場合、生産コストが高くなることが課題で現在はシラスウナギ1匹あたり1800円余りのコストがかかるということです。天然のシラスウナギと比べると、まだ3倍以上の価格差があり、実用化に向けてさらにコストを削減する技術を研究しているということです。
水産研究・教育機構 風藤行紀 シラスウナギ生産部長「将来的には、人工由来のウナギの価格を天然由来の養殖ウナギと同じ程度かさらに安くできるのではないかと考えている。少しでも早く実用化できるようにしていきたい」
東アジアに生息するニホンウナギは、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いとされています。水産庁によりますと、国内の川や湖でとれる天然のニホンウナギの漁獲量は、1961年の3387トンをピークに、去年は55トンとおよそ60分の1にまで減少しています。また、養殖のウナギの生産量は1989年の3万9704トンをピークに、去年は1万8294トンと半分以下に減っています。こうした状況を受け、環境省は2013年、ニホンウナギを「絶滅危惧IB類」に指定したほか、2014年にはIUCN=国際自然保護連合が「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種」として、レッドリストに掲載しています。
ニホンウナギは産卵の際には日本の川を離れ、日本から南におよそ2000キロ離れたマリアナ諸島の近くの海で産卵します。卵からふ化したあと海流に運ばれながら「シラスウナギ」と呼ばれる稚魚になり、日本の川までたどり着いて成長し、再び海に戻って産卵します。こうしたニホンウナギの生態は長年、詳しく分かっておらず、人工的に卵からウナギを育てる試みもうまくいきませんでした。国内でウナギの完全養殖に向けた研究が始まったのは1960年代で、1973年に北海道大学のチームが世界で初めて卵を人工ふ化させることに成功しました。
その後、2002年に当時の水産総合研究センターがアブラツノザメの卵をエサにすることで、シラスウナギまで成長させることに成功し、2010年には卵から育てたウナギを親にして、さらにその卵をふ化させる完全養殖に世界で初めて成功しました。ただ、当初は非常に高いコストがかかり、水産総合研究センターの後身となる組織「水産研究・教育機構」の2016年度の試算では、シラスウナギ1匹あたり4万円以上となっていました。その後の研究で、ふ化してからのエサを高価なアブラツノザメの卵からニワトリの卵などに切り替えることに成功したことや、水槽の形を工夫して卵からシラスウナギまで育つ割合を高めたことなどで現在は、シラスウナギ1匹あたりのコストは1821円にまで下がったということです。
一方、現在、ウナギの養殖に使われている天然のシラスウナギは近年、漁獲量が減り、価格が高騰しています。業界団体の統計や水産庁によりますと、シラスウナギの取引価格は上昇傾向となっていて、ことしは1キロあたり250万円、1匹あたりにするとおよそ500円と20年前と比べておよそ10倍となっています。水産研究・教育機構では、自動でエサを与えることができる装置の開発や、成長の早いウナギの品種改良などの研究を進めているということで、完全養殖のシラスウナギ、1匹当たりのコストが1000円を下回ることを目指しているということです。
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