“クマ すでに市街地に”
専門家「いつ出てもおかしくない」
クマの出没は抑えた、しかし…
“個人”ではなく“集落”でどうするか
秋田県の対策 “クマダス”も
あなたの地域は?ことしのクマ被害全国マップ
目撃データについて
秋田県湯沢市に住む高橋知子さん(76)です。去年10月、羽後町のゴルフ練習場で手伝いをしていた時にクマに襲われました。病院に搬送され手当てを受けましたが、右目を激しく傷つけられたほか、鼻骨やほお骨を粉砕骨折し、あばら骨も折る大けがをしました。視力は戻ることはなく車の運転を諦めたほか、趣味のミニテニスも辞めるなど生活は大きく変わってしまいました。顔の傷痕を治したり骨の位置を元に戻したりするための治療は今も続いています。
当時、高橋さんはとっさにその場から走って逃げました。「背を向けて走ってはいけない」と思って振り返ったところ、追いかけてきたクマに押し倒されて顔をひっかかれたといいます。
「あんなところにクマが出るなんて本当に信じられませんでした。あまりに急でクマが早かったので、びっくりも怖いという思いもないまま襲われた感じでした。好きなこともできないし、目をやられたことが一番の失敗でした。うつ伏せになって小さくなっていれば良かった」
手塚崇文助教 秋田大学医学部附属病院「クマの力は非常に強いので、鋭い爪で顔を引っかかれると多くの人は顔面神経をやられて顔の動きが悪くなったり、失明する人もいたりして、後遺症を残すような重篤な外傷を負ってしまう。去年、診てきた患者で、クマに襲われたときに時間的な余裕があったという人は極めて少なかったので、クマに遭遇した場合はまずは顔を守ってほしい」
秋田県では昨年度、クマに襲われる人的被害が過去最多の70人となりました。NHKが秋田県から提供を受けたクマの目撃データをもとに、去年とことしの傾向を比較し分析しました。
秋田県がまとめた県内のクマの目撃情報を地図上に可視化したものです。丸い点はクマの目撃が報告された地点で▼赤色はことし▼黄色は去年で、期間はいずれも4月1日から6月7日までです。特徴的な地域を見ていきます。
去年10月、相次いでクマに襲われるなど5人がけがをした秋田市新屋地区の周辺です。去年のこの時期は新屋地区がある雄物川の北側で目撃はありませんが、ことしはすでに複数回、目撃が報告されています。
近くの小学校と中学校では保護者にメールでクマの目撃情報を共有するほか、登下校時はできるだけ保護者に付き添ってもらうよう呼びかけました。
続いて、秋田市の中心部から北に6キロほど離れた秋田市飯島地区の周辺です。去年は東側の森林エリアでの目撃がありましたが、ことしは市街地の近くでクマの目撃情報があります。市街地への接近は秋田市だけではありません。
大仙市です。大曲駅を中心に住宅地が広がっていますが、この周辺でもことしは目撃が相次いでいます。秋田市と同様に去年は森林エリアにとどまっていました。こうした傾向は各地で見られていて、去年の今の時期であれば目撃がなかったような市街地やその近くでも、ことしはクマの目撃が相次いでいると見られます。
東京農工大学大学院 小池伸介教授 「この時期は従来であれば出没の時期ではないが、去年の秋に市街地でエサにありつけたクマが、その経験をもとにことしはすでに市街地でエサを探している可能性はある。去年の秋にクマが出た場所は、ことしはいつ出てもおかしくないという認識を持ってほしい」
2023年度、クマの目撃情報が780件と前年度の4倍以上に増加した秋田市では、対策をとったことでクマの出没を抑えられた地域があります。JR秋田駅から北西に2キロほど離れた秋田市手形山北町の住宅街では、去年10月、住宅街のそばにある山際の栗の木にクマ1頭が登っているのが目撃されました。
このときは、警察や猟友会が駆け付けて爆竹を鳴らしてクマを追い払い、住民に被害はありませんでしたが、木の近くにはクマが食べたとみられる栗の実も落ちていました。このため、町内会は栗の木に引き寄せられたクマが住宅街に出没するおそれがあるとして、秋田市を通して栗の木の所有者に依頼し、木は伐採されました。
それ以降、栗の木があった場所でクマが出没したという情報は寄せられていないということです。当時、町内会の会長を務めていた小鹿優太さんは「栗の木の所有者も非常に協力的ですぐに対策して下さったので、そこが一番大きい」と話しています。
その後、この場所ではクマの目撃情報はありませんでした。しかし、翌月。今度は、山でつながる南側の地域でクマの目撃情報が相次ぎます。
クマの目撃情報を地図で分析したところ、10月13日以降、手形山北町の南側にある広面地区や手形地区などで年内に少なくとも27件の目撃情報が寄せられていました。
11月22日に撮影された写真では現場近くの住宅のそばで柿の木に登って実を食べようとするクマの姿が確認できます。
東京農工大学大学院 小池伸介教授 「対策をしたところ、しなかったところの差が出てしまった。個人だけでなく集落でどうするかを計画的に取り組む必要があり、行政がある程度音頭をとって、えさとなる木などの誘引物を除去し住宅地につながる突破口を1つずつ封じていかなければ、ことしの秋も同じことが起きる可能性がある」
秋田県は、クマによる人身被害が去年過去最多となるなか、クマが人の生活圏に出没しないよう今年度、対策を強化しています。具体的には、人の生活圏でクマの人身被害のあった場所を中心に、65か所を「出没抑制重点区域」として7月中に設定し、▼山林と人の生活圏を行き来するクマの移動経路を遮断するために、道路脇や河川敷などのやぶの刈り払いや草刈りに重点的に取り組むほか、▼クマの食べ物となる放置された栗や柿の木についても所有者の同意が得られれば実がなる前に伐採することにしています。このほか、県は通学路や集落周辺のやぶや枝を刈り払って人とクマのすみ分けをする「ゾーニング」を進めていて、県は昨年度からの5年間に、800ヘクタールで刈り払いを行う計画で、今年度末までに全体の半分近くまで作業を完了させる予定です。そして、秋田県はクマの出没を多くの人と共有し被害を未然に防ごうと警察や市町村に寄せられるクマの目撃情報を1つに集約して地図上に示す「クマダス」の運用を7月から始めています。
これまで県で運用してきたシステムより早く情報を伝えられるほか、メールの配信機能も設けられ、市町村単位や任意で指定した場所を中心に半径数キロ圏内を設定して出没の情報を通知する機能も備わっています。県自然保護課は「より身近な場所での出没情報に限定して情報を得ることもできるので、クマの被害にあわないようこのシステムを活用してほしい」と話しています。
クマによる被害が過去最悪となった去年に続き、ことしも各地で被害が相次いでいます。ことし4月以降、7月3日までに全国16の道県で少なくとも37人がクマに襲われるなど被害に遭い、このうち2人が死亡しています。環境省のまとめによりますと、ことし4月から6月までにクマに襲われてけがをするなど被害にあった人は、▽秋田県で6人▽岩手県と▽長野県でそれぞれ4人など、全国であわせて34人となっています。
過去の同じ時期と比べると、年間を通じて過去最悪の被害となった昨年度は39人、この時期の被害が最も多かった2017年度が40人で、ことしも多くなっていることがわかります。さらにNHKの取材では7月に入ってから栃木県と福島県、それに兵庫県でそれぞれ1人がけがをしていて、クマによる被害はこれまでに全国16の道県であわせて37人に上っています。例年、春先から夏にかけては山林を中心に被害が出ていて、岩手県では5月中旬に山菜採りで山に入っていた60代の男性が遺体で見つかったほか、青森県でも6月25日に八甲田山系で80代の女性が死亡しています。
また、環境省によりますと、ことしは自治体に寄せられたクマの目撃や痕跡の情報が例年よりも増えていて、4月と5月をあわせると全国で3032件と去年の2567件よりも500件近く多くなっているということです。北海道から中部地方にかけての道や県の中にはクマに対する「警報」や「注意報」などを出しているところもあり、ホームページで公開している目撃などの情報を確認するとともにクマに出会わないための対策を取るよう呼びかけています。
▼データは、警察に寄せられたクマの目撃情報などを秋田県がまとめたものです。▼同じ個体が複数回、目撃されているケースがあり、「目撃の数」と「クマの頭数」は必ずしも一致しません。▼去年の被害が大きかったことから、「ことしは地域住民がクマの目撃を積極的に報告している可能性がある」とする指摘もあります。
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