岡山県にある国立ハンセン病療養所「長島愛生園」では過去に、患者の遺体の解剖が行われていてこのうち1932年から1948年にかけては、本人がぼ印を押すなどして解剖を承諾したとされる「剖検願」という書類が見つかっています。
この「剖検願」について療養所が、1932年から翌年と、1945年8月から1948年までのもの、合わせて175件を抽出して詳しく調べたところ、全体の22%にあたる39件が承諾を取ったとされる日に患者の死後の日付が記入されるなど、承諾したという記録がねつ造された可能性があることがわかりました。
このほか、死亡当日の日付が29件、亡くなる前日から7日前までの日付が92件でした。
記録を調べた国立ハンセン病療養所の園長は
記録を調べた長島愛生園の山本典良園長は記録がねつ造されていた可能性があることについて「園の責任者として重く受け止める」としています。
一方でそうしたことが行われていた背景について「医師の立場からすると亡くなる直前の患者に『亡くなったあとに解剖させてください』などと言うことができなかったのではないか。当時の医師はそういう行為をしていないと示そうと、あえて文書をねつ造した形跡を残したのではないか」と推測しています。
そのうえで「こうした事実を隠すのではなく、公開することでハンセン病の歴史や背景について考えるきっかけにしてほしい」と話しています。
人権擁護委員会の弁護士は
岡山県にある国立ハンセン病療養所、長島愛生園と邑久光明園の人権擁護委員会の委員長を務める近藤剛弁護士は「患者や家族の同意がないまま解剖が行われ、人権が守られていない状況だったのではないか」と指摘したうえで、「当時、医者の中には、患者が解剖されるのは当然だという意識があったのかもしれない。『剖検願』も形さえ整えればいいという認識だった可能性がある」と話しています。
そのうえで「人権を侵害され苦しい環境で暮らしてきた患者たちが承諾もなくなぜ解剖されたのか、きちんと究明することが名誉の回復につながる。そのためにも過去の過ちを検証することが重要だ」と指摘しています。
曽祖母が入所してい三好真由美さんは
1941年まで、長島愛生園に曽祖母の政石コメさんが入所していた松山市の三好真由美さんは記録のねつ造が繰り返されていた可能性があることに、怒りを示しています。
三好さんは、長島愛生園に対して情報開示請求を行い、去年、政石さんに関する資料が初めて開示されました。
資料によりますと、政石さんは1941年1月17日に施設内で自殺しましたが、遺体の解剖を承諾したとする「剖検願」が作成されたとされる日付は、その7日前の1月10日となっていました。
これについて、三好さんは「自殺する1週間前に解剖を承諾するわけがなく、明らかに不自然だと思っていました」と話していました。
そのうえで今回の調査で、記録のねつ造が繰り返されていた可能性があることが分かったことについて「やっぱりなという気持ちです。こうしたむごいことが過去に行われていたことを多くの人に知ってもらい、亡くなった患者たちを悼む気持ちを持ってほしいです」と話していました。
元患者の中尾伸治さんは
今回の調査結果について、長島愛生園に1948年に入所し、現在、入所者自治会の会長を務める元患者の中尾伸治さん(89)は「亡くなった患者はほとんど解剖されたとは聞いていたが、当時の医師もむやみに解剖したわけではなく、医学の貢献につながったと思う」と話しました。
中尾さんは、ハンセン病の影響で右手の親指が動かなくなりましたが、手術したことで動くようになったということです。
中尾さんは「こうした手術も解剖の積み重ねによってできるようになったと思う。今の時代から考えれば承諾のない解剖はよくないことかもしれないが、しかたない部分もあったのではないか」と話していました。
ほかの療養所でも不適切な対応との指摘
ハンセン病患者の遺体の解剖をめぐっては、全国にあるほかの国立の療養所でも不適切な形で同意を取っていたケースがあると指摘されています。
このうち岡山県の邑久光明園では、2022年、人権擁護委員会が報告書を公表し、入所者が解剖の承諾を迫られたり、遺族に対して医師が執ように承諾を迫ったりしたという証言が得られたとして、「正当な同意を得ていたとみなすことはできず、重大な人権侵害であった」と指摘しています。
また熊本県の「菊池恵楓園」でも入所者に対して解剖に対する同意を一律で求めていたことがわかり、園は「人権軽視の姿勢が改めて明らかになった」としています。
このほか、鹿児島県の「星塚敬愛園」も患者が入所する際、一律で同意を求めていたということで、各地の療養所で患者の解剖をめぐる不適切な対応が指摘されています。
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