深刻な人手不足や光熱費などの高騰が影響しているとみられ、信用調査会社は「訪問介護やデイサービスなど、在宅の高齢者を支える事業者の倒産が顕著で、歯止めがかからない状況が続くとみられる」と指摘しています。

東京商工リサーチによりますと、ことし1月から6月までに倒産した負債額1000万円以上の介護事業者は、去年の同じ時期よりも27件増え、全国で合わせて81件に上りました。

上半期としては最も多かった2020年の58件を大きく上回り、調査を開始した2000年以降、最多となっています。

サービス別には、
▽「訪問介護」が40件
▽デイサービスなどの「通所・短期入所」が25件
▽「有料老人ホーム」が9件
と、いずれも上半期としては最も多くなりました。

原因として、倒産した事業者のおよそ8割にあたる64件が、売り上げ不振を挙げています。

また、倒産が増加した背景には、深刻な人手不足や光熱費などの高騰が影響しているとみられ、業績低迷により、必要な人員を増やせないなど、悪循環に陥っているケースも目立つとしています。

東京商工リサーチは「訪問介護やデイサービスなど、在宅の高齢者を支える事業者の倒産が顕著で、人手不足や物価高の先行きが不透明なだけに、歯止めがかからない状況が続くとみられる」と指摘しています。

介護報酬改定で大幅に収入減るサービスの休止も

厳しい経営状況が続き、一部の介護サービスを休止することになった事業所もあります。

高齢者の筋力の向上や歩行のトレーニングなどを行う神奈川県厚木市のデイサービスの運営会社では、利用者は増加傾向にあるものの、毎月の人件費などのコストが事業を始めて以来9年で180万円、毎月の光熱費が14万円余り増加したといいます。

さらに、厚木市でこの春、国の介護報酬の改定にあわせ、通所型サービスの報酬が見直された結果、介護度が低い人を受け入れ続けた場合、収入は大幅に減る見通しとなり、7月にかけて「要支援」の一部の利用者の受け入れを休止することになりました。

この日、訪れていた矢部豊さん(65)は、8年前に腰の痛みから入院した病院で「脊柱管狭窄症」と診断され、足などにしびれが見られるようになり、「要支援1」の認定を受けて週1日、通っていましたが、利用ができなくなります。

矢部さんは「別の受け入れ先を探していますが、待機の状態で、自分の体力や体の動きを維持できるか不安です」と話していました。

施設を運営するひかりデイサービスの齊藤誠社長は「蛍光灯は半分使わずに電気の使用料を抑えたり、水道の湯の温度や量を調整したりして、さまざまなコストを切り詰めていますが、要支援の一部の人の受け入れを縮小するという苦渋の決断をせざるをえない状況です。ほかにも多くの高齢者が利用しているので、倒産して行き場所がなくならないように最善を尽くすのが責任だと思っています」と話していました。

専門家「地域の介護基盤の喪失につながる大きな問題」

介護事業者の経営に詳しい東洋大学の早坂聡久教授は「人件費や光熱費など、さまざまなコストが上がる中、介護報酬だけではまかないきれず、小規模な介護事業者を中心に、個別の経営努力だけではどうにもならなくなっているのが現状だ。特に訪問や通所介護という日本の在宅サービスを守ってきた2つの事業が最も厳しい状況にあり、地域の介護基盤の喪失につながる大きな問題だ」と指摘しています。

そのうえで、「今後、全国的に単身高齢者の増加が見込まれる中、介護サービスを受けられず状態が悪化すれば、逆に将来のコストが増加することになりかねない。国には、介護報酬を臨機応変に見直せる仕組みの検討を求めるとともに、自治体には、社会福祉協議会などに業務委託する形で、実質的に公設のサービスを検討するなど、在宅で生活している人を守っていく手だてを考えることを求めたい」と話していました。

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