「誰一人取り残さない」「犯罪をした者が、特性に応じ必要な指導及び支援を受けられるようにする」

 これは、罪を犯した人の社会復帰を支援する「第二次再犯防止推進計画」の基本方針です。推進計画は、罪を犯した人々の更生に力を入れる目的で、2023年3月に閣議決定されたものです。計画では、精神障害者や知的障害者の社会復帰に向けた支援に多くの分量が割かれています。

 法務省の統計では、その年に刑務所に入所した人に占める精神障害(知的障害を含む)のある人の割合は、12年の10.2%から、22年には16.8%まで上昇しました。

 こうした中、推進計画を立てた政府の狙いや私たちができることは何なのか。自身もかつて服役し、刑務所の内外で多くの障害者を支援してきた作家の山本譲司さんに聞きました。

  • 「受刑者歩き」していた彼に衝撃 懲らしめで終わらない社会めざして

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 06年から07年にかけて、厚生労働省の研究班の1人として、各地の刑務所に入っている知的障害やその疑いがある人たちについて調べました。

 多くは、窃盗や無銭飲食といった罪でした。経済的な生活苦などで社会の中にいられなくなったために犯罪行為に走った、という人たちが目立ちました。窃盗事件を起こした人の中には、それまで公園で1、2週間の間、水だけを飲んで生活していたという人もいました。

 障害があるから罪を犯したわけではない、ということも見えてきました。貧困や生まれ育った環境、障害者に対する差別のせいで、社会から孤立してしまったことこそが犯罪に走った直接の原因だったようです。

 視力が弱い人には眼鏡やコンタクトレンズといった手助けが必要なように、社会性や生活力が弱い人には、人的な手助けが必要です。私は長い支援の中で、罪を犯した障害者が「自分を大切にしてもらった」と感じたり成功体験を積んだりしたことで、がらりと様子や姿勢が変わるのを見てきました。

 国が進めようとしているのは、ただ刑務所で懲らしめるのではなく、それぞれに必要な支援もしていくことで彼らが罪を犯すのを防ごう、ということです。

 もしかしたら、みなさんの身の回りにも、障害があって罪を犯してしまう人が出てくることがあるかもしれません。そうした時は、全都道府県に設置されている「地域生活定着支援センター」に相談してみてください。出所後にどんな支援を受けられるかや、その時に向けてどんな準備をしたらいいかを教えてくれるはずです。

 そうやって、罪を犯してしまった人を社会で包み込んでいくやり方こそが再犯を防ぎ、新たな被害者を生まないことにもつながります。障害者や罪を犯した人たちを包摂する社会は、自分たちにとっても生きやすい社会になると信じています。(聞き手・森下裕介)

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