3000億円の基金で大学と高等専門学校の理系分野の拡充を促す事業で、文部科学省は26日、新たに85大学・11高専の計96校を選定したと発表した。約50大学が初めて理系学部を設置。2028年度までに理系学部の入学定員は1万9千人増えることになる。デジタル人材の育成などに向け、理系転換が進むが、教員の確保などが課題となる。

事業は①公私立大向けにデジタルや脱炭素に関する学部新設などに最大20億円を助成②国公私立大と高専向けに高度デジタル人材の育成に向けた大学院の定員増などに最大10億円を助成――の2つ。②では質が高い提案に最大10億円を上乗せする「ハイレベル枠」もある。

今回で2回目の選定で、23年7月に公表した初回の支援対象は計111校だった。公募は最長で32年度まで行われる。

今回選ばれた96校のうち、28大学が初めて理系学部をつくる計画で、初回選定分(21大学)と合わせると49大学となる。再編後の学部・学科の系統を申請大学に複数回答で聞いたところ、デジタル系が86%、環境系が37%だった。

大手前大(兵庫県西宮市)は27年度に情報学部を新設し、産官学が連携した授業を通してデジタル実装の提案につなげる。清泉女学院大(長野市)は同年度に設ける農学部で、地域の食と農に関する経営者や技術者に授業に協力してもらい、地域振興に寄与できる人材育成を目指す。

高専は11校が選ばれた。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本、ラピダスが北海道に進出したことに伴い、苫小牧高専や旭川高専、熊本高専が半導体人材の育成を掲げた計画を提出した。

2度の公募で選定された大学は計190校で、大学全体の2割超にあたる。

選定された学校にはまず準備費用3000万円が支給される。その後文科省が設置認可申請を審査し、認可されれば施設整備費などが支援される。3度目の公募は24年中に始まる見通し。

日本の大卒者(年約62万人)のうち、理工農を含む自然科学分野の学位取得者は約21万人で、全体の35%にあたる。英国(45%)やドイツ(42%)、韓国(同)と比較して低い。

政府はデジタル人材が30年に約79万人不足すると推定。教育未来創造会議では理系を専攻する学生を32年度までに5割に引き上げる目標を掲げている。達成するには、理系の入学定員を10万人規模で増やす必要があり、理系学部の拡充が急務となってきた。

課題は教員の確保と理系学部への志願者増加だ。

20年に東京大などを中心に構成するコンソーシアムが国公私立の364大学に尋ねたところ、数理教育は5割、データサイエンス・人工知能(AI)は6割が「担当できる教員が不足している」と回答した。

デジタル人材などは民間や大学との間で争奪戦が激しい。事業の支援を受けて24年度に初めて理系学部を設置した私大幹部は「質の伴う教員をそろえることが一番難しかった」とこぼす。

情報系学部の人気は既に低調との見方もある。大手予備校「河合塾」によると、私大の情報系学部の志願者は24年春の入試で前年比92%に減少した。

文科省は大学進学者の裾野を広げるため、全国の高校約1000校をデジタル教育の拠点として「DXハイスクール」に指定した。ICT(情報通信技術)を活用した文理横断的・探究的な学びに取り組むなどして、指定校での理系学部の進学者を28年度に2万人増やすことを目指す。

(大元裕行)

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