国賓として英国を訪問中の天皇、皇后両陛下は25日夜、バッキンガム宮殿で開かれたチャールズ国王とカミラ王妃主催の晩餐(ばんさん)会に臨んだ。天皇陛下はおよそ14分にも及ぶスピーチを全て英語で行い、「両国の友好親善関係が、次代を担う若者や子供たちに着実に引き継がれ、一層進化していく一助となれば幸いです」と語り、チャールズ国王と杯を交わした。

  • 【写真まとめ】天皇、皇后両陛下、晩餐会へ 皇后さまはティアラ着用

 今回の訪問は天皇陛下の即位後、故エリザベス女王から生前に国賓として招待を受けたことが始まりだった。天皇陛下は、女王を「敬愛する故エリザベス2世女王陛下」と呼び、自身の英国留学経験から「中でも王室の皆様には大変温かく接していただくなど、両国の交流の一端を担ってきたことをうれしく、ありがたく思っています」と述べた。

 先の大戦を念頭に、「日英両国には、友好関係が損なわれた悲しむべき時期」があったとした上で、「苦難のときを経た後に、私の祖父(昭和天皇)や父(上皇さま)が女王陛下にお招きいただき、天皇としてこの地を訪れた際の思いがいかばかりであったか」と思いをはせた。

 再生医療や気象予測、生物多様性の保全の分野での日英連携の具体的な事例を挙げつつ、「日英関係はかつてなく強固に発展しています」と述べた。両国関係の現状を「裾野が広がる雄大な山」と表現し、「先人が踏み固めた道を頼りに、感謝と尊敬の念と誇りを胸に、更に高みに登る機会を得ている我々は幸運と言えるでしょう」と述べ、両国が「かけがえのない友人」として「永続的な友好親善と協力関係を築いていくこと」を願い、しめくくった。

 これに先立ち、チャールズ国王がスピーチを行い、冒頭に「英国へお帰りなさい」、しめくくりに「乾杯」と日本語で述べ、両陛下を最大限に歓迎した。

 陛下は「ホワイトタイ」とよばれる燕尾(えんび)服に、この日の国王主催の昼食会後に国王から贈られた英国最高勲章の「ガーター勲章」を身につけた。皇后さまは正礼装のローブデコルテにティアラを着用した。晩餐会は英のスナク首相のほか、日本人宇宙飛行士の山崎直子さんらの姿もみられた。(ロンドン=中田絢子)

天皇陛下のおことば全文

国王王妃両陛下

 陛下、温かい歓迎の全てに感謝いたします。この度は、私と皇后を国賓としてお招きくださり、訪問の実現に向けて国王王妃両陛下を始め貴国の皆様から多大なるご配慮とご尽力を頂いたことに、心から御礼申し上げます。

 敬愛する故エリザベス2世女王陛下にご招待を頂いてから、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、こうして約5年の月日を経て国賓として英国の地を訪れることができましたことは、誠に喜びに堪えません。

 本日の午後には王室コレクションの我が国ゆかりの品を拝見し、改めて日本と英国の間で長きにわたり織りなされた交流の歴史を振り返ることができました。

 私自身、英国で学び、多くの人々と関わり合い、中でも王室の皆様には大変温かく接していただくなど、両国の交流の一端を担ってきたことをうれしく、また、ありがたく思っています。

 日英両国には、友好関係が損なわれた悲しむべき時期がありましたが、苦難のときを経た後に、私の祖父(昭和天皇)や父(上皇さま)が女王陛下にお招きいただき、天皇としてこの地を訪れた際の思いがいかばかりであったかと感慨深く思います。そして、計り知れぬ努力をもって、両国の未来の友好のために力を尽くしてこられた人々に、皇后と共に深い敬意と感謝の念を表します。

 私の祖父は、1971年の晩餐(ばんさん)会で、日英両国の各界の人々がますます頻繁に親しく接触し、心を開いて話し合うことを切に希望し、また、私の父は、1998年に同じ晩餐会で、日英両国民が、真にお互いを理解し合う努力を続け、今後の世界の平和と繁栄のために、手を携えて貢献していくことを切に念願しておりました。

 現在、我々の社会は、ますます多様化・複雑化し、地球規模の各種課題に直面しており、世界全体で一層英知を結集しこれらの重要課題の解決に努める必要があります。そのような中、日英両国民の長年にわたる心を開いた話し合いと真の相互理解への努力が実を結び、両国が連携・協力して世界を牽引(けんいん)している分野が、これまでも、またこれからもあまたあるということを大変うれしく思います。

 例えば、日英の科学者の最先端の医学研究による世界への貢献です。ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の研究で知られるiPS細胞は、同賞を共同受賞した英国のガードン博士の先行研究の成果を踏まえたものであり、再生医療に革新をもたらしました。明日訪れる予定のフランシス・クリック研究所でも、がん研究やインフルエンザへの対応において日英の若手研究者を含む多くの関係者が協力し、新たな挑戦に取り組んでいます。

 また、昨日は私的にテムズバリアを視察いたしました。テムズバリアは、1953年に起きた英国史上最悪の北海高潮被害(the 1953 North Sea Flood)を踏まえて建設されました。

 英国における高潮予測の発展には、日本人研究者の石黒鎮雄博士、日系英国人でノーベル文学賞受賞者の作家カズオ・イシグロ氏のお父上が重要な役割を果たされました。石黒博士は、英国の研究所に迎えられ、北海の高潮の正確で迅速な定量的予測を実用化しました。

 石黒博士がその研究から発展させたアナログ計算機は、カズオ氏によるとBBCドラマ「ドクター・フー」(Doctor Who)のタイムマシン「ターディス」(TARDIS:Time And Relative Dimension in Space)の内側のようだったとも聞いています。石黒博士による電子工学と海洋科学の学際的イノベーションは独創的であり、今を生きる日英両国の研究者にも、時空を超えて大きなインスピレーションを与えているものと思います。

 今回、国王陛下がパトロンを務めておられる王立キュー植物園を23年ぶりに再訪し、「ミレニアム・シード・バンク」による絶滅回避のための種子保存の取り組みなどについて視察することを楽しみにしています。国王陛下が気候変動や生物多様性などの問題に情熱と危機感をもって取り組まれてきたことに敬意を表するとともに、日英の多くの人々がこうした環境問題に関心を持ち、諸課題の解決に力を尽くしてきていることに勇気付けられます。

 「ミレニアム・シード・バンク」には、東日本大震災の津波被害により高田松原で数万本の松が倒れる中で唯一残った「奇跡の一本松」と同じアイアカマツなどの種子が岩手県から寄贈されたと伺っており、強靱(きょうじん)性や震災からの復興、そして日英友好の象徴として長く保存されることでしょう。

 最新鋭の技術を駆使したパフォーマンス・ラボラトリーの視察など、王立音楽大学を再び訪問することも楽しみにしています。また、皇后と共にV&A(ヴィクトリア&アルバート)子ども博物館を訪問し、日英の子供たちと交流して、両国の文化や芸術が、国や時代の枠を超えて子供たちにどのようなインスピレーションを与えているのか、じかに感じられればと思います。

 さらには、皇后と私が留学し、一学生として英国の生活・文化を経験したオックスフォードの地を訪れ、すみません、国王陛下には都合が悪い場所かもしれませんが(記者注・チャールズ国王はケンブリッジ大で学んだ)、日英間の学術・研究・教育分野での協力や若い世代の交流の促進に少しでも貢献できればと考えています。日英関係は、長い年月をかけ世代を超えた人々の交流を通じて育まれてきました。

 今回の英国訪問を通じて、両国の友好親善関係が、次代を担う若者や子供たちに着実に引き継がれ、一層進化していく一助となれば幸いです。

 国王陛下も言及されたように、我々の時代においては、政治・外交、経済、文化・芸術、科学技術、教育など、実に様々な分野で日英間の重層的な連携・交流が加速しており、日英関係はかつてなく強固に発展しています。裾野が広がる雄大な山を、先人が踏み固めた道を頼りに、感謝と尊敬の念と誇りを胸に、更に高みに登る機会を得ている我々は幸運と言えるでしょう。

 今後とも日英両国がかけがえのない友人として、人々の交流を通じて真にお互いを理解し合う努力をたゆみなく続け、永続的な友好親善と協力関係を築いていくことを心から願っています。

 ここに杯を挙げ、国王王妃両陛下のご健勝と、日英関係の更なる発展と世界への貢献、そして両国国民の末永い幸せを祈ります。

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