世界遺産・姫路城について、兵庫県姫路市が外国人観光客の入城料を高く設定することを検討すると明らかにした。大阪府も外国人観光客から「徴収金」を集めることを議論しているほか、民間にも「二重価格」導入の動きが出ている。
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「7ドルで入れる世界遺産は姫路城だけ。外国の人は30ドル払っていただいて、市民は5ドルぐらいにしたい」
姫路市の清元秀泰市長は16日、市内で開かれた国際会議で姫路城の入城料値上げに言及した。市は約10年ごとの入城料改定も視野に、姫路城の保存活用計画策定の議論を進めている。
入城料は現在、18歳以上で1千円。1ドル=150円台後半の現在の為替相場で換算すると、6・5ドルほどで、外国人観光客の「30ドル」は約4倍の値上げとなる計算だ。
清元市長は17日夜、報道陣の取材に応じ、発言の真意について語った。「30ドル」としたのは国際会議で議論した専門家の意見も参考に述べた、と説明。「議論はこれからで、決まった数字ではない」という。
保存活用計画では、城内堀の石垣の点検や瓦や白しっくいの職人育成に必要な経費も盛り込むことを検討しており、増大が予想されるコストをまかなうためには値上げの必要があるとした。
さらに、姫路市のインバウンドについては「市民がバスに乗れないというような、京都でのオーバーツーリズムとは一線を画している」としたうえで、木造建築である姫路城に登閣する人数は、保護の観点から制限する必要があるとの見解を示した。
料金差については、「日頃から自分の庭のように感じ、清掃ボランティアにも積極的に参加していただいている市民の負担を増やすという決断は難しい。姫路城の価値を理解し、海外から姫路城を目的地に来られる方に応分の負担をお願いする、という議論をしてもよいのではないか」と説明。「市民と外国観光客とで別料金を設定することはグローバルスタンダードだと考える」と述べた。
「大賛成。大阪城でもやったらいい」
姫路城の値上げ検討について、こう応じたのは、隣県・大阪府の吉村洋文知事だ。一方、大阪城を所管する大阪市は25年春から、大人の入城料を600円から倍の1200円に値上げすると公表したばかりで、さらなる値上げには慎重姿勢だ。
吉村知事の念頭にあるのは、ごみのポイ捨てやバスの混雑などオーバーツーリズム(観光公害)への対策だ。府は4月以降、対策費の捻出のため、外国人観光客から「徴収金」を集めることへの議論を進めている。
制度化には課題もある。府は宿泊税のようにホテルや旅館に徴収してもらう案を軸に検討するが、事業者からは負担増への反発も予想される。
府の有識者会議では「観光の課題は日本人、外国人問わずに起こる」などと慎重意見も相次いだ。府幹部は「徴収金は現状では、なかなか制度化が難しいと感じる」と漏らす。(宮沢崇志、箱谷真司)
海外の観光施設で導入例 国内では飲食店でも
海外の観光施設でも、外国人観光客と自国民との間で「二重価格」を設定する例はある。
ペルーのマチュピチュ遺跡の入場料は、ペルー周辺の観光客が約5千円に対し、外国人は約2倍の約1万円。インドのタージマハルは、インド人が100円弱だが、外国人は22倍の約2千円だ。
大阪府の徴収金と同様の制度も、インドネシアのバリ島で今年から導入されている。全ての外国人観光客に対し、1人あたり約1500円を課す。専用ウェブサイトで決済ができ、空港カウンターで現金払いもできる。
二重価格の導入は国内の飲食店でも出てきた。
東京都渋谷区に4月に開店した海鮮居酒屋「海鮮バイキング&浜焼きBBQ 玉手箱」では、約60品の海鮮の食べ放題と飲み放題の約7千~9千円のコースで、日本在住者は外国人観光客より1100円安い。
他の飲食店も営むオーナーの米満尚悟さん(39)は「円安などの影響で、外国人観光客が来店しすぎ、日本人が入店できない状況だった」と言う。外国人観光客の予約の4~5割で無断キャンセルが発生するといい、英語ができるスタッフの確保や観光客になじみの薄い食べ放題の説明、キャリーケースの置き場所などの「コストを反映させた」。観光客らの口コミで「差別主義だ」との意見もあるが、来店客は理解してくれているという。
ポイントサービス「Ponta」を運用する「ロイヤリティ マーケティング」が国内に住む1200人を対象に2月に実施した調査では、二重価格の設定について、「賛成」と「やや賛成」が58・3%だった。一方、反対の立場からは「差別感がある」「詐欺みたいに感じる」などという意見があったという。
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