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「日本版DBS」を柱とする「こども性暴力防止法案」が国会で成立した。

新たな制度では、学校や学習塾などで、新しく雇う人やすでに働いている人について、特定の性犯罪の前科の有無を確認することができる。

この制度で子どもを性暴力から守ることはできるのか。対象とする業種や犯罪の種類などには課題が残されている。
(テレビ朝日デジタルニュース部 笠井理沙)

■なぜ「日本版DBS」が必要なのか

学校の教師や学習塾の講師、保育士やベビーシッターなどによる、子どもへの性暴力が後を絶たない。

こども家庭庁によると、性犯罪の有罪確定後、5年以内の性犯罪の再犯率は13・9%。さらに小児わいせつ型の性犯罪で有罪が確定し、性犯罪の前科が2回以上で、前科も小児わいせつ型だった人の割合は84・6%だった。

一定数が小児わいせつ型の犯罪を繰り返していることが指摘されている。

子どもに対する性暴力は、支配的な立場にある大人によって行われ、第三者が被害に気づきにくく、継続して暴力を受ける可能性もある。

被害者の心身に大きな影響を与え、「魂の殺人」とも言われる性暴力。子どものころに性暴力を受けた当事者たちからは、その後の人生に暗い影を落とし続けることも指摘されている。

そう話すのは、大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さんだ。近著に「子どもへの性加害―性的グルーミングとは何か」(幻冬舎新書)がある斉藤さんは、これまで200人以上の小児性愛障害と診断された性加害者の治療に取り組んできた。加害者の再犯を防ぐためにも、「日本版DBS」の必要性を感じている。 「再犯防止のプログラムを受けている加害者は、子どもに接するようなハイリスクな状況をむしろ避けて、性加害してしまうような状況を回避しています。これは治療プログラムの基本原則です。その原則に従えば、子どもに関わる仕事に就けなくなるというのは当たり前のことです。『日本版DBS』は子どもを守るという意味でも重要ですし、間接的に加害者自身も守る法律だと思います」

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■「職業選択の自由」という壁

■「職業選択の自由」という壁

国は去年6月に有識者会議を設置、法案化の作業を進めてきた。

制度はイギリスの「DBS(Disclosure and Barring Service)制度(前歴開示・前歴者就業制限機構)」を参考につくられた。

イギリスでは、職種に関わらず雇用主が働く人の犯歴照会を求めることができる。特に、子どもに関わる職種では、子どもに対する性的虐待などの犯罪歴がある人を雇うことは法的に禁止されている。そのため子どもに関わる職種の雇用主は、働く人の犯歴照会を行うことが義務化されている。

一方、日本では「職業選択の自由」を保障する憲法や刑法との兼ね合いから、対象とする職種や犯罪の種類、照会する期間などを絞り込んで法案が作られてきた。照会が義務付けられるのは学校や保育所などで、学習塾やスポーツクラブ、認可外保育所などは任意の認定制とした。

「日本版DBS」の仕組み

斉藤さんは、被害者となってしまう子どもたちを守るという視点が重要だと指摘する。

「子どもの人権という問題と、加害者の職業選択の自由の部分的な制限を天秤にかけたときに、もちろんそれは子どもの人権を尊重するべきではないでしょうか。加害者臨床では、加害者の加害行為の克服には、被害者にその負担を負わせないというのが原則です。再犯防止のプログラムに参加している加害者の方に聞いても、子どもに接する状況を最小限にとどめる『日本版DBS』はあってしかるべきというのがみなさんの意見です」

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■下着窃盗やストーカー 人に対する性暴力とは言えない?

■下着窃盗やストーカー 人に対する性暴力とは言えない?

先月の衆議院特別委員会では、付帯決議がつけられた。その中の一つが、対象となる犯罪の種類だ。

こども家庭庁は、不同意わいせつ罪などの刑法犯や痴漢などの条例違反は対象としているものの、下着の窃盗やストーカー規制法違反は含まなかった。この理由について加藤鮎子大臣は国会で次のように説明した。

これに対して、下着窃盗等については、財産に対する罪の窃盗罪。またストーカー規制法違反については、恋愛感情またはそれを満たされなかったことによる怨恨の感情を従属する目的でつきまといなどを繰り返す罪であり、人に対する性暴力とは言えない」

加藤大臣の発言を受け、「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんは、署名を呼びかけた。対象となる犯罪に、下着窃盗やストーカー規制法を含めるよう求めるものだ。

「じゃあそういうことはやってもいいという、抜け道のようになってしまったら嫌だなと思いました。この文言自体が被害を受けた方にとって、二次加害だと思いました。大臣が下着の窃盗やストーカー行為を性暴力とはいえないと言い切ってしまったのがとても残念に感じました」 1週間で3万2000人を超える署名が集まり、こども家庭庁に提出した。 「性的なバウンダリー(境界線)を侵害されるという意味では、どちらも同じだと思います。下着を触られたくないのに触られる、奪われる。ストーカーもここまで来てほしくないというバウンダリーを侵害されることです。恐怖心も感じるし、性暴力じゃないっていうのはおかしい。同意のない行為は、性暴力だよねっていうことがこれを機にもっと広まってほしいなと思います」

福田さんは、近く加藤大臣に直接署名を提出し、要望を伝える。「日本版DBS」がより良いものとなるよう活動を続けていきたいとしている。

「学校や塾での性暴力が相次いでいますが、それも氷山の一角で、外に出ない形で無数にあるんだろうということは、容易に想像ができます。そういう中で、こういう法律ができて、性暴力はいけないことだという社会規範ができていく。そういう役割に期待しています」

■子どもを性暴力から守るためには

付帯決議の中には、加害者の再犯防止のため、データの蓄積や研究、更生プログラムの充実なども盛り込まれた。

加害者の治療プログラムに関わる斉藤さんは、「日本版DBS」をきっかけに、社会全体の変化が必要だと感じている。

「再犯防止のプログラムに取り組んでいる加害者は、本当にごく一部です。多くの方が、治療プログラムにつながることができていない。『日本版DBS』で排除されてしまう可能性のある人たち、その他にも子どもへの性加害を繰り返してしまっているような人たちがたくさんいます。そういう人たちを適切なプログラムにつなげる仕組みと他の就労の機会が得られるチャンスが必要だと感じています。
また、この制度では再犯を防止することができても、初犯を防ぐことはできない。ここは大きな課題です」

こども家庭庁は、前科の確認だけでなく、性犯罪の「恐れがある」と事業者が判断した場合に、子どもに接しない業務に配置換えをするなどの措置を義務付けるとしている。法が施行されるまでに、有識者や現場の意見を聞き、ガイドラインを作成するとしている。

こども家庭庁の担当者は、法案について「乗り越えなくてはいけない壁が大きかった。それでも、子ども達を守るためにぎりぎりのバランスが取れた」と評価した。一方で、「あらゆる場面で指摘をいただいている。この先の宿題は多い。まずは法律によって、社会全体で子どもへの性犯罪を許さないということが示せれば」としている。

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