拡散される画像 SNSの闇
脅されて送った写真 消えない不安
削除要請 AI活用も 減らない被害相談
性的脅迫で子どもが自殺…アメリカでは社会問題に
みずから画像削除できるシステムも
◇相談先一覧
こちらは、制服姿の女性を斜め下から盗撮したとみられる写真です。一定の期間、無料で配られたとみられ、ダウンロード数は922回と表示されています。こうした画像は、数百円程度から、有料でも売買されているといいます。
また、学校の卒業アルバムの写真や体育祭などで撮られたとみられる運動着姿の写真などが個人名とともにさらされているケースもありました。
さらに、名前や住所、バイト先などをさらし、「レ○プ計画」などと犯罪の発生につながりかねない投稿まで確認されました。この投稿を見つけた鈴木さんは、強い危機感を感じ、警察に通報。今もやりとりを続けているといいます。
見た瞬間、これはやばいなと。身の危険が迫っていると感じたので警察に通報しました。証拠画像も提出して、把握しておきます、という回答で。
SNSを運営するプラットフォームにも、投稿が行われた日に通報したということですが、取材した日も投稿は残っていました。
こうした投稿を許していたら、日本の子どもたちの人生が終わるんじゃないかと感じてしまって…。被害者の多くは、被害に気付いてすらいないのではと思います。インスタグラムなど、一般的なSNSに自分で投稿している写真を悪用しているケースもあるので気をつけてほしい。悪用する側が悪いんですけど、本当に自分の画像をインターネット上にアップしていいのか、一度考えてもらえたらなと。
こうしたネット上での画像の無制限な拡散に、不安を感じている人がいます。20代のあおいさん(仮名)。中学2年生のとき、ネットで知り合った男性に写真を送るよう強要されました。
当時、親から暴力を受け、家でも学校でも居場所がなかったといいます。友だちを作ろうと始めたチャットアプリである男性と知り合い、少し年上の大学生くらいだろうと思ってメッセージをやりとりするようになりました。
あおいさん『学校行ってきたよ』というやりとりから始まり、おしゃべりをしているような感覚で、一日中、連絡をとりあっていました。3日くらいたつと『顔を見てみたい』と言われるようになり、当時、自分の顔に自信がなかったので断ったのですが、『きっとかわいいと思う』『大丈夫だよ』と催促され、送ってしまいました。
その後、男性からは、「どんな部屋に住んでいるのか見てみたい」、「制服姿を見てみたい」と、立て続けに要求が続くようになります。そして、次第に、性的な画像の要求に移っていったといいます。
ためらうようなことを言うと、制服も知られていたので『学校にばらまくぞ』と言われ、怖くて、送らなくちゃという感覚に陥ってしまいました。本当に、何かにすがる思いで送っていました。
その後、あおいさんは、警察や民間の支援団体に相談。男性は警察に逮捕され、30代か40代の会社員だったと言います。このとき、あおいさんは、自分以外にも、この男性の被害に遭った女性たちがいたことを知らされました。そして、新たな不安に悩まされるようになります。子どもの裸の写真が投稿されているサイトが数多くあることを知ったのです。
サイトの存在を知ったのは、最近のことです。子どもを性的に見ている大人がいることを、当時はよく分かっていませんでした。いくら逮捕されたとはいえ、どこかに拡散しているかもしれないという恐怖を感じています。自分の写真が『人質』にとられたような感じで、ずっと重荷を背負わされている感覚です。
NPO法人「ぱっぷす」では、あおいさんのような不安を抱える人たちの相談を受けてきました。2017年からは、被害者に代わって拡散され続ける性的画像を調査し、サイトの運営者などに削除を要請する活動を行っています。
2023年度は123人から削除要請があり、1万6526件の削除要請を実施。このうち1万件あまりが、実際に削除されました。団体ではスタッフの人手が不足する中、去年からAIを使ったシステムを導入して画像の特定を進めています。
NPO法人「ぱっぷす」 金尻カズナ理事長被害者みずからが性的な画像を探し削除要請を行うというのは、深刻な二次被害を生みかねず、福祉的なアプローチとしてスタッフが代わりに削除要請を行ってきました。しかし、スタッフにとっても精神的な負担が大きい作業で、AIを活用することで自動的に探せるということは、作業の効率化に加えて、負担の軽減につながっています。
団体のスタッフたちみずから開発を進めているAIのシステム。
自分の写真が拡散していると訴えている人からの相談を受け、流出先のサイトのURLや画像をスタッフが人力で確認し、調査します。その情報をAIに繰り返し読み込ませ学習させます。するとAIは、アダルト動画の投稿サイトやSNSの一部などから同じ人物の顔の画像を自動的に検出してくれます。結果は一覧で表示され、さらにスタッフが確認した上でサイトの運営者などに削除要請を行っていきます。
人物特定の精度を上げていくためには、まだ開発の途上だということですが、相談者の画像が再び上がってきていないか、自動的にAIがパトロールを続けていて、今は24時間体制で監視することが可能になりました。金尻さんは、拡散し続ける画像を1つずつ削除することで、被害者の不安が軽減し、自分を取り戻す過程につながっているといいます。しかし、いわゆる「リベンジポルノ」や盗撮映像などがアップロードされる被害は止まないと言います。
1件1件、しらみつぶしのように削除要請をしていますが、サイトができては閉鎖される連続で、正直、骨が折れる作業です。性的な画像を投稿するプラットフォームは、日々進化し、巧妙化していて、システムをアップデートしながらなんとか対応しているのが現状です。映像や画像が残ることに本当に苦しめられている方がおり、加害をさせないための社会にしていかなければならないと思います。
性的な画像の拡散は、日本だけでなく、世界的に問題になっています。フェイスブックを運営するメタなど主要なIT企業が本拠地を置くアメリカでは、この数年、性的な画像を使って脅迫される「セクストーション」の被害に遭い、未成年の子どもが自殺するケースが顕在化。大きな問題になってきました。2年前、17歳で命を絶ったジョーダンさんです。
SNSを通じてみずからの性的な画像を送ってしまい、それを脅迫に使われたことを苦にして、自殺したとみられています。
父親のジョンさん朝7時半に、寝室で亡くなっている息子を見つけました。とてもショックで…。過呼吸になり、うまく息を吸うことができませんでした。
ジョーダンさんのインスタグラムに10代の女性を名乗るアカウントから連絡があったのは、ある日の午後10時すぎ。学校のことや、ジョーダンさんが得意だったスポーツについて、チャットでやりとりするようになりました。会話を続けておよそ2時間がたった深夜0時すぎ。アカウントの求めに応じて、自分の性的な画像を送ります。その直後、チャット上でのアカウントの態度がひょう変。ジョーダンさんのインスタグラムのフォロワー一覧のスクリーンショットを示され、性的な画像をフォロワーに送る、嫌なら1000ドルを払えと脅迫されました。ジョーダンさんは300ドルを送金。これ以上のお金はないと伝えましたが、アカウントは脅迫をやめませんでした。ジョーダンさんは、その日の午前3時半すぎ、みずから命を絶ちました。犯人のアカウントから友達申請が来てから、わずか5時間半の出来事でした。
父親のジョンさんセクストーションは、とても早いペースで進みます。ジョーダンの時も、すべては、私たちが寝ていた6時間ほどの間に起きてしまいました。親や家族、友達が介入することは非常に難しかった。息子はまだ子どもで、適切に対処する精神的な余裕がありませんでした。もし、あのときジョーダンと会話できていたら、はじめは怒ったかもしれませんが、この問題には対処できる、ネットを遮断して、関係先に電話すればいいと、伝えていたはずです。私たちにそれはできなかったけれど、こうした会話ができていたら…と、心から思います。スマートフォンひとつで、子どもたちは全世界にアクセスすることができるのです。親の世代には、難しくても、子どもをできるだけSNSから引き離すべきだと伝えたい。そして子どもたちには、もし同じことが自分の身に起きても大丈夫、けっしてこの世の終わりではない。誰かに相談して、と伝えたいです。
もし、自分で性的な画像や動画を撮影し、誰かに送ってしまったら、どうしたらいいのか。【撮影時 18歳未満】先月から日本語でも使えるようになったのが、アメリカの非営利団体が運営するサイトです。特定のSNSなどに対し、匿名で、みずから性的な画像や動画の削除を依頼できます。
使用の条件など▽18歳未満のときに撮影した、性的な画像や動画▽撮影に使ったスマホなどから申請する必要あり
対象となるのは、協力企業が運営する、TikTokやInstagram、一部のアダルト動画サイトなどです。
ウェブサイト上で該当する性的な画像や動画を示すと、その画像などの情報が協力企業に送られます。それぞれの企業は運営するプラットフォーム上で画像や動画を探し出し、該当するものがあれば、各企業のポリシーに沿って削除などの対応をとることになります。【撮影時 18歳以上】撮影した時期が18歳以上の場合は、上記のサイトと同じシステムを使ったイギリスの非営利団体が運営するウェブサイトで削除を申請できます。現時点では日本語での表示はされませんが、運営団体によると、近く日本語で使えるようになる見通しだということです。
被害があとをたたない、子どもたちの性的画像の拡散。中学生のときに男性から画像を強要され、いまでも拡散の恐怖を抱き続けているあおいさんは、被害を止めるために社会の意識が変わることを願っています。
あおいさん大人が子どもを性的に見ている社会って、そのこと自体がすごく怖いなと思っています。社会には『送ったほうが悪い』という声もあると思いますが、子どもに写真や動画を送らせるまでの加害者側の誘導、手口はすごく巧妙で、ひきょうです。送ってしまった方は『自分が悪いことをしてしまった』と思って、被害に気付いていないかもしれません。相談していいんだよと伝えたいし、被害者に寄り添った社会になってほしい。
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警察相談専用電話#9110性犯罪被害相談電話#8103性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター#8891
よりそいホットライン 0120-279-338こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。
NHKでは、子どもへの性的搾取が社会に広がっている実態などを番組で放送しています。NHKスペシャル「調査報道・新世紀 File 3 子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇」▼前編 6月8日(土)夜10時~ NHK総合▼後編 6月15日(土)夜10時~NHK総合
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