技能実習に代わる外国人材の受け入れの新制度「育成就労」を創設する改正入管難民法などが14日、参院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。立憲民主党、共産党、れいわ新選組は反対した。3年以内に施行され、政府は2027年にも新制度を始める方針だ。

「育成就労」を創設する改正入管難民法などを可決、成立した参院本会議

 技能実習では職場の変更が認められず、搾取されたり失踪したりする人が続出。このため、新制度は1〜2年後に同じ業務で職場を変える「転籍」を認める。育成就労の期間終了後は、技能の習熟度が高く最長5年働ける「特定技能1号」に移行しやすくするようにし、技能を高めながら長期に働けるようにする。  一方で、政府は「将来的に永住者の増加も見込まれる」との理由で、外国人の永住資格の取り消し要件を拡大。納税や社会保険の支払いを滞納した場合などには永住許可を取り消すことができる規定を設けた。(池尾伸一)

 永住資格 10年以上日本に在留する人や、日本人と結婚した配偶者、高度な技能や知識を持つ人などが取得できる在留資格。昨年末時点で89万人。取得者のうち最も多いのが中国籍の33万人で、フィリピン籍(13万人)、ブラジル籍(11万人)、韓国籍(7万人)と続く。旧植民地である朝鮮半島と台湾の出身で、1945年9月以前から日本に住む人と子孫が取得できる「特別永住資格」は、今回の取り消し制度の対象外となる。

◆新制度は資格取り消し対象を拡大

 外国人の永住資格の新たな取り消し制度と技能実習に代わる「育成就労」を設ける法律が、当事者らの反対を押し切る形で成立した。日本社会は外国人抜きでは回らなくなっているが、「選ばれる国」としての魅力は低下する懸念がある。  「永住者の生活と人権を脅かす」—。在日韓国人の団体「在日本大韓民国民団(民団)」は6日、国会前で法律への反対集会を開いた。横浜中華街の中国人たちでつくる「横浜華僑総会」も5月に声明で「深刻な差別だ」と反発した。

永住資格の取り消し制度に反対する在日本大韓民国民団の人々=6日、永田町で

 永住資格は日本に10年以上住む人らが取得でき、従来は1年超の実刑が確定した場合などを除いて取り消されることはなかった。新制度は取り消しの対象を拡大し、税金や社会保険料の滞納や、入管難民法の義務違反も剝奪の根拠になる。

◆当事者から悲鳴「あまりに過酷」

 条文があいまいなため入管当局の裁量が大きく、不注意による在留カードの不携帯や病気で税金が払えない場合も取り消される懸念が指摘される。「在留カードを財布に入れ忘れただけで永住資格を失うなんて、あまりに過酷」。18年前に来日した米国籍の女性ソラナ・ミツさん(44)は、反対集会で訴えた。

国会内の集会で永住資格取り消しに反対する人たち=10日、左からソラナ・ミツさん、ルイス・スカーレットさん、曽徳深さん

 岸田首相は法改正の必要性について、一部永住者の税金未納を指摘して「地域住民との間で不公平感を助長する」と説明。だが、入管行政に詳しい指宿昭一弁護士は「日本人と同じように延滞税の徴収や差し押さえをできる。在留資格まで奪うのは過剰で差別的な制裁だ」と指摘する。  新設される「育成就労」制度についても、批判が根強い。劣悪な就労環境でも業種によって最長2年は転籍を禁じ、日本語や職業能力試験にも合格しなければならない。「過酷な職場ほど勉強時間もなく転籍しにくい」(共産党の仁比聡平氏)という矛盾を抱える。

◆8年間も家族を帯同できない

 育成就労の3年間に加え、そこから一段階上がった「特定技能1号」の5年間も合わせて計8年間は家族を帯同できない。  首相は「外国人材に選ばれる国にする」と繰り返すが、横浜華僑総会顧問の曽徳深(そうとくしん)さん(84)は「人材の(モノとしての)『材』に重きを置きすぎで『人』を見失っている。人として尊重する迎え方が必要だ」と訴えた。 

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