犯罪や非行を犯した人に寄り添い、立ち直りを支える。そんな重い役割を担う保護司の男性が殺害された。警察は保護観察中で、被害者が担当していた男を殺人容疑で逮捕した。
男は容疑を否認しているが、事実であれば保護司制度の土台が揺らぎかねない。真相解明とともに、すべての保護司が安心して活動できる体制整備を急ぐべきだ。
保護司は日本独特の制度だ。非常勤の国家公務員で、報酬はない。刑務所や少年院を出た人らの住居や就労先を探したり、地域で犯罪予防を呼びかけたりと活動は多岐にわたる。被害者の男性は長年、熱心に保護司を務めてきたという。奉仕活動の末に命を奪われたとすれば残念だ。
制度は海外でも高い評価を受けるが、なり手は年々減っている。その結果高齢化が進み、全国約4万7千人の平均年齢は65歳を超えた。このままでは制度の存続が危うい。今回の事件で減少に拍車がかかることを危惧する。
保護司対象のアンケート(2019年)では、4人に1人が「1人で面接することに不安や負担を感じている」と回答した。価値観や犯罪が多様化し、対象者との関係づくりが難しくなっているとの指摘もある。担い手の確保にあたり、こうした負担感を払拭することは欠かせない。経験の浅い保護司をベテランがサポートするような取り組みを増やしたい。
今回の事件を受けて、法務省はすべての保護司を対象にトラブルの有無などを調べるという。実態を把握し、リスクの芽があれば早急に対処しなければならない。
一方で保護司と信頼関係を築き、社会復帰への道を着実に歩んでいる人も多い。保護観察対象者への偏見がこれ以上広がらないようにすることも必要だ。
再犯防止のためには罪を犯した人を孤立させず、社会が受け入れることが求められる。保護司はその伴走者であり、水先案内人でもある。不幸な事件を繰り返させず、制度を守る手立てを考えたい。
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