栃木県市貝町職員の残業代(時間外勤務手当)未払い問題。町は職員に残業に関するアンケートをし、過去にさかのぼって支給するとしたが、実際に支払われることが決まったのは1人だけだった。なぜこのような結果になったのか――。

 市貝町の入野正明町長は4日の町議会全員協議会で、町職員のタイムカードの打刻時間と残業代の申請時間に乖離(かいり)が生じたのは、「(職員が残業代を)申請しづらい庁内環境が原因と考えている」と明言した。

 だが、「申請のしづらさ」という雰囲気にとらわれず、過去の残業代を請求してきた職員に求めたのは、残業した事実を認定できるタイムカード以外の証拠を示すことだった。

 町は「県に相談したが、税金を原資として払うので、しっかりした証拠を基に、という指導をいただいた」と説明する。

 ただ、その結果、残業代を請求した職員からは、「確実な証拠はないので(認定の)面談は結構です」といった回答がかえってきたという。

 なぜ、タイムカードでは不十分なのか。町は取材に「あくまで公金・税金を使っている以上、例えば資料作成というだけでなく、何の資料を作ったのか、具体的に何時から何時までやったのかがないと、認められないという判断をしている」と説明している。

 唯一、支払いが決まった1人の職員については、「メモで、何月何日の何時から何時に、こういうことをしたという具体的な記載があった。それにのっとって、当時の同僚の職員にも確認するなどし、正確性、蓋然(がいぜん)性は高いと判断した」と経緯を説明した。

 一方、町が示した条件を満たせず、請求を途中で断念せざるをえなかった職員には、納得できない人もいるようだ。町の関係者によると、職員らの間では「タイムカードの打刻時間で不確実とされるのであれば、何のためのタイムカードなのか」といった声も上がっているという。

 町議会でも、本会議などで町の対応を問う質問があった。「働き方」に詳しい評論家で、千葉商科大学国際教養学部の常見陽平准教授は、「タイムカード以外のもので残業を証明するには、退勤時に時計の写真を撮ったり、会社を出たことを家族に伝えるLINEメッセージの画面を保存したりする方法がある」と指摘するが、「これは企業側を訴えるときに労働者側がとる手段。(今回の市貝町のように)後からタイムカード以外の手段で残業を証明してというのはナンセンスだと思う」と断じた。その上で、「本気で問題を解決するならば、ほかに確認するツールがなかったか、役場側が考えないといけない。今のままでは残業を認める気がないように見えてしまう」と話し、町側に責任があるという見方を示した。(津布楽洋一)

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