公園の砂場では、いつの時代も子どもたちは砂いじりに夢中になる。

 一方、日本海に面した巨大な砂場では、世界から集った彫刻家たちが砂のかたまりを彫り刻み、アート作品に仕上げる。

 気の遠くなるような歳月がつくり出した自然の造形美、鳥取砂丘。そこに、人が生み出す造形美が並ぶ「砂の美術館」はある。

 吹き抜けの展示室に足を踏み入れると、いまはフランスの華やかな空気に包まれる。4月19日から始まった展示「砂で世界旅行・フランス編」。今夏のパリ五輪・パラリンピックにちなみ、フランスの歴史と芸術文化にスポットをあてた18点の砂像が来場者を迎える。

 幅約22メートル、高さ約5メートルの「ヴェルサイユ宮殿」、約20分の1のスケールの「ノートルダム大聖堂」、ナポレオンが皇帝に即位した「戴冠(たいかん)式」の場面。ぼうぜんとするほどのスケールと、人物の髪のうねりや衣服のひだも丁寧に再現された精巧な作品に、香港から旅行で訪れた40代の女性は「砂でできていることが信じられない。とても美しい」とため息をついた。

 鳥取砂丘をもっとPRしようと、鳥取市が2006年に砂の彫刻を屋外に展示するプロジェクトを始めたのが「砂の美術館」の始まりだ。大型テントでの展示を経て、12年に屋内施設になった。「砂で世界旅行」をコンセプトに、ほぼ毎年テーマを替えて世界各地の建造物や歴史などを砂で表現している。

 作品作りに使われる砂の量は約3千トン。のりや凝固剤は用いず、水だけで固めた砂のブロックを彫って砂像がつくられる。フランス編に参加した砂像彫刻家は、欧米や韓国など12カ国の計20人。総合プロデューサーの茶圓(ちゃえん)勝彦さん(63)は「圧倒的な迫力と超一流の繊細な技術。その両方の魅力を感じてもらえれば」と話す。

 会期が終われば作品はすべて崩され、もとの砂にかえる。そして次のテーマの展示で、また新たな作品に生まれ変わる。「残らないはかなさが砂像の魅力」と茶圓さん。

 いま出会える砂像は、次に訪れた時、もうそこにはないかもしれない。そのかわりに別の砂像と出会えるだろう。

 砂色の世界は、はかないけれど持続可能だ。(富田祥広)

 〈メモ〉鳥取市福部町湯山2083の17。JR鳥取駅からバスで約20分。車では山陰道・鳥取道鳥取インターチェンジから約20分。フランス編の展示は来年1月5日まで(年末年始を含めて無休)。開館時間は午前9時~午後6時。入館料は一般800円、小中高生400円。団体割引もある。問い合わせは同館(0857・20・2231)へ。

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