衆議院第1議員会館前で保険証廃止反対を訴える医師ら=5月23日、東京都千代田区永田町で
今年12月2日の健康保険証廃止まで半年を切った。厚生労働省はマイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」の利用促進のため、5~7月の利用件数の増加率に応じて最大で病院に20万円、薬局には10万円の一時金を支給する。 政府としては何としてもマイナ保険証への移行を達成したい考えだ。しかし、マイナ保険証の利用率は今年に入って上昇に転じたものの、依然として低迷。4月時点で6.56%にとどまっている。国家公務員のうち厚労省の本省職員が入る共済組合で8.40%(3月)だ。 では、なぜ国民の利用率が上がらないのか。最大の理由は「今はメリットを感じず、制度に不安がある」からだ。 厚労省は5月、マイナンバーと健康保険証のひも付け誤りが生じない仕組みを確保したと発表した。理論上、6月からひも付け誤りは起きない。これで安心してマイナ保険証を使えるようになるのか。この点について、取材した複数の医療関係者は「そう簡単にいかない」とクギを刺す。仕組みは完璧でも実行するのは人間だからだ。 5月に公表された会計検査院の報告では、マイナンバーシステムが自治体で機能していない実態が明らかにされた。国民健康保険へ切り替えに際し、同システムでは前職の情報が得られ証明書が要らなくなるはずだったが、最新の情報に更新されておらず使えなかったのだ。 健康保険組合の加入や資格喪失の情報をサーバーに登録するには10日以上かかることがある。このタイムラグ問題は簡単には解決しない。結婚や転居、転職というライフステージごとに保険組合が変わることがある。未更新期間に医療機関を受診し、資格確認ができず「保険資格なし」となれば、初診では全額実費となる可能性がある。また、文字コードの問題で氏名の一部が「●」で表示されるトラブルも解決していない。 一方、政府の強引とも言えるマイナ保険証利用促進策の影響で4月以降、本紙読者からは「大手薬局チェーンの店舗で、マイナ保険証でないと薬は処方されないと聞いたが本当か」というメールが届いている。もし薬局が利用件数を増やすために、そのような対応をしたのなら問題だ。 厚労省は4月17日、保険証の提示について「受診のたびにマイナンバーカードでの電子資格確認、現行の健康保険証の提出のいずれかで行うのが基本」とする事務連絡を都道府県などに出した。 この中で提示頻度についてこれまでと同じ「月1回以上」を可とし「移行期間」ではマイナ保険証を利用しても何も変わらない。ただし移行後は毎回提示が原則で、利用者にとっては手間が増える。 マイナンバーカード自体持っていない国民が3千万人以上いる現状で「マイナ保険証一本化」だけが独り歩きしてはならない。
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