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 台湾の地震発生から、4月9日で1週間です。台湾では、地震が発生してから、わずか2、3時間で避難所が設営されたことが注目を集めています。

■充実サービスに驚き 台湾の避難所

 台湾での地震の翌日、Xに『台湾の避難所』というワードがトレンド入りしました。「台湾の避難所の対応が迅速すぎて驚いている。日本も見習わないとね」 「台湾の避難所の態勢すごいな。地震は気の毒だけど避難所が整ってることで、避難者の体調や精神面で大分違うだろうな」 という投稿が見られました。

 被害が大きかった花蓮市内の避難所は、冷房完備、簡易ベッドが備えられたプライバシーに配慮したテントが設置され、女性専用や特別支援者専用の寝室も設置されました。  食事は、台湾名物の豚肉ごはん「魯肉飯(ルーロ−ファン)」に、魚の練り物、焼きアユ、丼物や麺類、ドリンクも用意されていました。  他にも、無料Wi-Fi、充電サービス、電話サービス、無料アロママッサージ、無料クリーニング。子どもが遊ぶスペースにはゲーム機も用意されていました。  避難者は、「避難所の生活はとてもいい。必要なものは足りている。食べ物も十分にある」と話していました。

 茨城大学の特別研究員で、日本と台湾の地域防災を研究している李さんによると、「どの避難所でも、安全、衛生的、プライバシー、食事の確保ができており、生活に困らないレベルが確保されている」ということです。

 台湾の避難所は、地震の発生から数時間で設営が完了しています。

 地震が発生して、1時間で、市や各支援団体を結ぶLINEグループが立ち上がり、必要な物資の情報交換が始まります。

 2時間後にはテントを設置、3時間後には被災者を受け入れ、4時間後には、設備がほぼ整いました。

 これほど早くできたカギの1つ目は、官民連携です。

 災害が起きた際、行政が各ボランティア団体、協力団体に支援要請をします。災害時に備えて、日ごろから官民協力の仕組みができています。

 今回の地震の被害が大きかった花蓮県の消防局長は、「必要な時は、私たちからすぐボランティア団体に連絡するし、彼らもすぐに災害対応に入る。行政と民間の協力は難しいことではない。普段からコミュニケーションを取っているから」と話しています。

 こうしたスムーズな連携の背景には、平常時に、自治体と各ボランティア団体が頻繁に顔を合わせて、災害時の避難訓練や研修を実施しているということがあります。  迅速に対応できるカギの2つ目は、役割分担です。

 李さんによると、「行政は、どのボランティア団体がどんな支援を提供できるか把握しており、災害時に支援が重複しないようになっている」ということです。

 今回の地震でも、台湾仏教慈濟基金会という団体が、テント・毛布・ベッド・食事を提供。台湾世界展望会という団体が、子どものケアを行うというように、役割分担がしっかりとできていました。

 こうしたボランティア団体は、“支援の専門家”だということです。

 先ほどの台湾仏教慈済基金会は、普段から国内外で避難所運営に特化した支援を行っていて、災害時には、避難所設置に関する行政アドバイザーになります。

 台湾世界展望会は、普段から、支援が必要な家庭の子ども支援を行っていて、子どもに関する専門知識を用いて、被災した子どもの心のケアを行います。

 基督教芥菜種会という団体は、カウンセリング、マッサージサービス などケア活動を行います。

 4月9日で台湾地震から約1週間ですが、すでに二次避難が進んでいます。花蓮市内の避難所は、7日午前に、撤収が完了しました。 地震発生から4日で閉鎖です。  避難者は、行政が手配した、3つの寺院の宿泊施設へ移りました。施設は、個室でバス・トイレ付です。

 花蓮県の県長は、「長期的に寺院の宿泊施設を借りるのは、根本的な解決策ではない。中長期的に使える土地を探すほか、仮設住宅を建て、被災者が早く元の生活に戻れるようにしていく」と話しています。

 避難所の閉鎖は、なぜ早いのでしょうか。

李さんです。
「台湾は8日に4連休が明け、学校が再開した。授業の進行の邪魔にならないよう、前日に閉鎖した」ということです。

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■災害対応に活かされる 過去の教訓

 台湾の地震に対する素早い対応には、過去の災害対応から学んだ教訓が活かされています。

 2009年には、台風で、700人近い人が亡くなる大きな被害が出ました。この時、メディアで報道された地域に物資やボランティアが集中し、分配に手が回らず、人員や物資が浪費されました。一方で、報道されなかった地域では、人員や物資が不足しました。

 この反省から、2009年に『強靭台湾計画』という、防災プロジェクトを立ち上げました。

 内容は、発災時の直轄市・県・町など自治体の業務の役割分担をする。町の防災計画を作る。避難訓練・防災備蓄をする。民間との連携の確認などです。

 民間との連携ですが、2010年代、地方政府がボランティア団体や企業などと災害支援協定を結びました。

 これにより、災害時に避難所の運営や物資の提供などの支援を要請できる体制が作られました。災害支援協定を結んでいるボランティア団体は1630団体、企業は542社です。

 さらに、2018年、今回と同じ花蓮市で、最大震度7の地震がありました。

 この時、避難所には仕切りがなく、休憩場所と食事のスペースがあいまいで、被災者から不満が出ました。

 課題は他にもありました。

 各ボランティア団体からの支援が重複して、必要以上のトイレットペーパーや、必要以上のカウンセラーが避難所に入るなど、需要と供給が釣り合わないということがありました。

 この反省から、各ボランティア団体が支援する内容を細かく決め、支援に当たることにしました。 次のページは ■“災害大国”イタリアの避難所運営

■“災害大国”イタリアの避難所運営

 災害大国ともいわれるイタリアの対応です。

 イタリアは、地震や洪水、土砂災害が多発している国で、災害用の備蓄品は自治体などの公費で購入されていますが、管理や運用の大部分は、ボランティア団体が担当しています。

 イタリアは、“TKB48”という取り組みが最も進んだ国のひとつです。

 この“TKB48”とは、T=トイレ、K=キッチン、B=ベッドのことで、『48』は災害の発生から『48時間以内にこれらを避難所に設置する』仕組みのことをいいます。  避難所・避難生活学会の水谷常任理事によると、「イタリアでは、被災を免れた近隣の州から被災地に支援が入ってきて、避難所の設営から撤収まで運営を行う。したがって、被災地の行政職員は避難所運営を行わない。災害当日に、避難所で調理したてのおいしい料理がふるまわれている」ということです。 次のページは ■課題多い日本の避難所

■課題多い日本の避難所

 2024年元日に発生した能登半島地震では、石川県で、全壊・半壊が2万3653棟、一時最大約3万4000人が1次避難所に避難しました。避難所では、いわゆる“雑魚寝”で身を寄せる被災者の姿もありました。

 いまも石川県では、体育館などの1次避難所146カ所で、3597人が避難しています。また、旅館やホテルなどの2次避難所187カ所で、2671人が避難しています。  4月8日に入学式を迎えた、輪島市の輪島高校では、新入生76人が出席しましたが、入学式の会場の体育館の1階では、いまも地域住民が避難生活を送っています。  日本の避難所の課題は、自治体ごとのバラバラの避難所運営です。

 石川県では、能登半島地震の発災当時、県内の一部の自治体では災害用テントの備蓄がありませんでした。

 福島県相馬市では、震度6強を観測した2021年の福島沖地震の時、市内の体育館に一時最大92人が避難しましたが、この体育館では、発災から数時間後に35張のテントの設置が完了しました。

 なぜ自治体によって、避難所の様子が違うのでしょうか。

 『災害対策基本法』では、『避難所の環境改善は、市町村の努力義務』にとどまっているからです。

 避難所・避難生活学会の水谷常任理事は、「災害対策基本法で、市区町村が避難所開設の主体となっているため、全国1741市区町村で1741通りの避難所のあり方が存在している」と指摘します。

 では、どうしたらいいのでしょうか。

水谷常任理事です。
「海外では、防災専門の省庁が、災害支援の“標準化”を進めている国も。その結果、国内のどこで災害が起きても、避難所の様子は同じ。日本でも避難所の環境は全国どこでも差が出ないよう、国が防災専門の省庁を設置して標準化すべき」といいます。

(「羽鳥慎一 モーニングショー」2024年4月9日放送分より) この記事の写真を見る(28枚)

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