制度開始から15年がたった裁判員裁判は、昨年から18、19歳が裁判員に選ばれるようになった。これまで裁判員を務めた若者は、公判を通じてどんな思いを抱いたのか。10代が参加する上での課題を聞いた。(中山岳)

裁判員裁判 有権者から無作為に選ばれた6人の裁判員と、欠員に備える補充裁判員が、裁判官3人と審理する。2009年5月の制度開始から今年2月末までに裁判員と補充裁判員を務めた人は延べ約12万4000人。約1万6000人の被告が判決を受け、死刑は46人、無罪は157人。

◆証拠が少ない中、判断する難しさ

 「人を裁く難しさを感じ、貴重な経験をした」。大学2年の秋月大輝さん(19)=東京都内在住=は、2月の東京地裁での審理を振り返った。

2月に裁判員を務め「良い経験だった」と話す大学2年秋月大輝さん=東京都内で

 被告の男は、スナック店主の女性に対してわいせつな行為をし、バッグを奪おうとしたとして、強制わいせつ致傷などの罪に問われた。審理で男は女性の家に入る同意を得たとして無罪を主張したが、女性は否定。言い分が食い違うなか、判決は女性の証言が信用できるとし、実刑判決を言い渡した。  証拠が少ない中で判断するのは簡単ではなかった。「年上の他の裁判員や裁判官との評議では自分の意見を言え、時間をかけて議論した。納得できる判決を出せた」と話した。

◆18、19歳は裁判員全体の0.6%

 裁判員の選任年齢が18歳以上になったのは、成人年齢の引き下げに合わせた措置だ。最高裁によると、昨年に裁判員を務めた18、19歳は少なくとも26人で、裁判員全体(4525人)の0.6%。秋月さんは「大学が春休みで参加できたが、試験期間中だったら辞退したかもしれない。審理が長期だと、学業を理由に辞退する人も少なくないのでは」と推し量る。  10代の多くは、裁判を知る機会が少ないとも感じる。「中学、高校時代に授業で裁判員制度を学んだ時間はわずかだった。若者の裁判員を増やすには、学校で公判を傍聴する機会をつくったほうがいいと思う」と話した。   ◇

◆死刑か無期懲役か…重大事件は負担大きく

 裁判員法は、辞退理由に学生であることを認めており、10代の裁判員がどこまで増えるかは不透明だ。

「小中学生のころから法律に触れることが必要」と話す熊田彰英弁護士

 中高生らに向けた模擬裁判や法律家などとの交流イベントを開く「司法教育支援協会」代表理事の熊田彰英弁護士は、裁判員裁判の対象が殺人を含む重大事件で、裁判員が死刑か無期懲役かの判断を迫られることについて「社会経験が少ない18、19歳には事件によっては負担が大きく、精神的ケアの態勢や教育機会も不十分だ」と指摘する。 2009年5月に始まった裁判員裁判で、12年以降は毎年、候補者のうち辞退者の割合が6割を超える。熊田弁護士はその要因に、審理長期化を挙げる。評議時間の増加などにより、初公判から判決までの平均審理期間は17年に10日を超え、昨年は14.9日まで延びた。裁判員の負担が増し、仕事や介護などを長期間休めない人が辞退している可能性があるとみる。

◆審理長期化「制度見直しを」

 村岡啓一・白鷗大元教授(刑事訴訟法)は「辞退率の高さや審理日程の長期化を見れば、現行制度は裁判員にとってベストとは言えない」と指摘。改善策として、長期間の裁判では有罪か無罪か判断する手続きと、刑の重さを決める手続きとで、担当裁判員を分けて負担を分散させる案を挙げる。しかし、国の制度見直しへの動きは鈍い。  「15年間で見えた課題を放置したまま制度を続けるのは疑問で、見直しの議論を進める時期だ」 

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