ドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子(あしはらひなこ)さんが急死した問題で、ドラマを制作した日本テレビは31日、社内特別調査チームによる報告書を発表した。制作側と、原作者と出版した小学館が改変を巡って意見が一致せず、原作者から厳しい指摘を受け、一部場面を撮り直したことも明かされた。日テレは原作者側との調整不足を認め、報告書では、改変を巡る経緯について原作者側と認識に齟齬(そご)があったとした。

◆ドラマ内容に原作者の不満は「なかったとみられる」

 ドラマは全10話。原作は終わっておらず、10話は原作にはない内容だった。報告書によると、原作者側は意見が合わない制作側に不信感を持ち、9、10話は「創作」を入れないでほしいと要望。脚本家の交代を強く求め、最終的に原作者が脚本を書いた。だが、降板した脚本家は「9、10話にも自分のアイデアが使われている」と、スタッフ名簿に「協力」などで名前を入れるよう求めたが、原作者に認められなかった。  こうなった理由は、制作側が当初、原作者側が改変はあまりしてほしくないと強く要望していたことを認識せず、原作者の不信感を招いたことが大きい。原作者が小学館を通して問い合わせた場面の撮影が終了していないのに「そのシーンは撮影済み」と制作側が虚偽の回答をし、信頼関係が失われる一因になった。未撮影が原作者に伝わり、撮り直すことに。制作担当者は「撮影現場に迷惑をかけるので、とっさに事実と異なる回答をした」と反省しているという。  報告書は、ドラマの制作期間は開始から初回放送まで約6カ月であり、結果として短かったとした。また、中心となるプロデューサーを経験の浅い若手1人で担っていた。一方、ドラマは芦原さんの意向が取り入れられており、内容に「不満を抱えていたという事実はなかったとみられる」との認識を示した。  日テレの報告書に対し、小学館広報室は「現在、特別調査委員会で調査を進めている。調査結果は来週早々にも公表したいと考えている」とコメントした。   ◇  ◇

◆石沢顕社長おわび「関係者や視聴者を不安な気持ちにさせた」

調査報告書の内容を伝えた日本テレビの報道番組「every.」=日本テレビから

 日テレは午後5時にホームページで調査報告書を公表すると同時に、報道番組「every.」で約12分かけて内容を説明した。この中で、石沢顕社長のコメントも放送。芦原さんに哀悼の意を表した上で、「関係者や視聴者の皆さまを不安な気持ちにさせてしまったことについておわび申し上げます」とした。   ◇  ◇

◆「原作者を尊重するという大原則」どこに?

 日テレ制作の「セクシー田中さん」の脚本は、原作者の芦原さんが最終2話分を自分で書くなどしており、結果的に著作者人格権は守られた形になっている。ただ、今回の調査報告書を読んだ上智大新聞学科の水島宏明教授は「原作者を尊重するという大原則が明文化されていない」と問題点を説いた。  報告書では、今後へ向けた提言で「原作者や脚本家との信頼関係を構築する方策」として、制作責任者がドラマ化の世界観や、映像化の効果などを示した「相談書」を作り、原作側に示すよう求めた。また、原作者との早期の直接面談を要請することや、脚本家への細かな説明、最終話までの構成案を提示することも挙げた。  「ドラマの制作者側は原作者と人間同士の信頼関係を築いて『作品を委ねていい』と思ってもらう必要がある」と水島教授。報告書は細かな技術論は提示しているが、ドラマの制作者側の視点で書かれ、原作者や脚本家らクリエーターをどう守るのかとの記述はあまりないと指摘する。  テレビ局は広告収入の減少から配信に力を入れ、ドラマの制作本数は増えると見込まれ、問題は今後も起こる可能性がある。「クリエーターらはドラマの制作側に対して強く主張しにくい。何らかの問題を抱えたときに、相談できる紛争解決窓口をテレビ局が持ってもいいのではないか」と提案した。(川上義則) 

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