「退職しました」
新入社員110人退職
「10人就職したら3人以上は離職」
20代が辞める理由に変化も?
背景に人手不足「辞めても次を見つけやすい」
企業側に求められることは
代行を依頼した新入社員たちの退職の理由を教えてもらいました。
「事前に聞いていた業務内容と違っていて、キャリアプランが不安になった」「正社員として採用されたにもかかわらず、派遣社員としての勤務だった」「入社前の説明では服装・髪型は自由だったが、髪色が明るいという理由で入社式に参加させてもらえなかった」
事前に聞いていた業務内容や条件が実際と違っていたという内容が多いということです。また入社早々、パワハラのような経験をしたことも理由としてあげられています。
「社長から『使えないやつ』などの暴言や高圧的な態度を取られた」「30分前に出勤すると『遅い、新人は最低でも1時間前に来ないといけない』と言われた。早く出ても手当はないと言われた」
なかには同じ企業の新入社員3人から相談があり、いずれも退職したケースもあったということです。
このほか、ミスマッチの理由は自分自身の側にあると感じている人もみられました。「上司などに不満はないが、私の未熟な精神が会社の風潮にマッチせず心身共に没落してしまった」こうした状況について退職代行業者の代表は次のように話しています。
退職代行サービス「モームリ」 谷本慎二代表「長く勤めることは大事だと思いつつも、退職理由をみると、これは辞めて次の会社に行った方がいい人も多いという印象があります。実際、当社を利用した人でも、1ヶ月後に連絡がきて『やめてよかった、今は楽しく暮らしている』という人が多くいます。頑張れる人は頑張った方がいいが、それでも難しいときは、精神面が崩壊する前に、退職、転職を考えるのも手だという実感があります」
相次ぐ新入社員の離職ですが、データからも離職率が減っていない状況がわかります。厚生労働省の調査では、4年前の2020年3月に大学を卒業した新入社員のうち、就職後3年以内に離職した人の割合は32.3%と、前の年に比べて0.8ポイント増えました。
こうした「3年以内の離職率」はこの10年以上、3割を超える水準で「10人就職したら3人以上は離職する」という状況が続いています。また、3年前の2021年3月に大学を卒業した新入社員のうち、2年以内に退職した人を見ると24.5%と、ここ10年で最も高くなっているのが現状です。人材の流動化が進み、前向きな転職も増えているとみられますが、若手の退職が相次ぐ状況は変わっていません。
一方で、「辞める理由」には変化が見られているというデータもあります。転職サービスを運営する「パーソルキャリア」が去年、転職を経験した800人あまりを対象に、会社をやめた理由として当てはまるものを選んでもらった調査の結果をみてみます。会社を辞めた理由として最も多かったのは「給与面の問題」でしたが、それ以下は「人間関係」を理由に挙げる人が増える傾向があるということです。このうち20代について、多い順番に見てみます。
▽「給与が低い・昇給が見込めない」35.2% 1位(2022)→1位(2023)▽「人間関係が悪い/うまくいかない」25.9% 8位(2022)→2位(2023)▽「社員を育てる環境がない」23.5% 14位(2022)→3位(2023)▽「ほかにやりたい仕事がある」23.0% 16位(2022)→4位(2023)▽「労働時間に不満」21.7% 6位(2022)→5位(2023)▽「働く場所を変えたい」20.6% 13位(2022)→6位(2023)▽「尊敬できる人がいない」20.4% 11位(2022)→7位(2023)※調査は36項目から、当てはまる選択肢をすべて選んでもらう形式
「給与が低い・昇給が見込めない」が前年の調査に続いて最も多かった一方で、▽「人間関係が悪い/うまくいかない」が8番目から2番目に、▽「社員を育てる環境がない」が14番目から3番目に大きくあがっています。一方、前年・2022年の調査で2番目に多かった「昇進・キャリアアップが望めない」は13番目に、3番目だった「業界・会社の先行きが不安」は19番目に下がりました。調査を行った企業の桜井貴史さんは、企業が社員1人1人に向き合っているかどうかが重要になってきていると指摘しています。
「リモートワークが普及するなかで、先輩や上司からのフォローが得にくいなど、コミュニケーションの難しさを感じた人が増えたことに加えて、終身雇用の崩壊やコロナ禍を経験し、働く将来に対する不安から、1つの会社内での昇進よりも自分自身の市場価値を上げていくことを大切にしていることが影響していると考えられる」
さて、冒頭で紹介したような新入社員や若手の退職が相次ぐ状況の背景には何があるのでしょうか。労働法が専門の早稲田大学法学部・水町勇一郎教授は、多くの企業で続く人手不足があると指摘しています。
早稲田大学 水町教授「人手不足で、辞めても次を見つけやすいので、転職の意思表示をすることが多くなっていると思います。自分に合わなければ、なるべく早く決断をして次を探そうと。『私と合わなかったので辞めます』という意志表示をすることは、基本的に対等な契約当事者間ではやっていいことですし、そういう状況になってきているかと思います」
そして「辞めたい」と悩んでいる人がまわりにいる場合、どうアドバイスしたらいいか尋ねると。
「昔のいわゆる”終身雇用”だと、会社に入って3年は勤めないと『すぐ辞めたがる人』というイメージがなくはなかったんですが、今は会社が合わなければ、早めに辞めて次を探した方がいいという意識がかなり広がってきています。卒業して1年、2年の人を新しく雇うという会社も出てきています。そのこと自体は悪いことではないと思います。働きながらでも次は探せるので、次を探しながらきちんと辞めるということを法的にアドバイスすることは大切かもしれません」
一方で、退職する際に会社側と賃金や働き方などについての問題を抱えている場合には、行政の相談窓口や労働組合、弁護士に相談する方法があると言います。「総合労働相談コーナーという行政の相談窓口がありますし、きちんと辞めたい場合には、労働組合や弁護士に相談する手もあります。お金がかかることもありますが、無料法律相談もあるので、相談に行って、2週間の予告期間を置いて退職の意志表示をすれば、ちゃんと辞められることを確認しながら、手続きを進めればいいと思います」
一方で、企業側は新入社員とのミスマッチを作らないために、賃金はもちろんのこと、働き方や職場環境の面でも努力が必要だと指摘します。
水町教授「企業も魅力的な職場、働き方を作って、みんなから来てもらえる、定着してもらえるような職場の雰囲気を作っていくことが必要です。今、初任給をあげる動きが大企業を中心に出てきていますが、賃金を上げることも大切な一方、柔軟な働き方や風通しのいい職場環境を作っていくことが、中長期的に会社の基盤を固めていくためにより大切だと思います」
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。