「あかぎ団」のライブで客席に笑顔を向ける加藤さやかさん(中央)=2024年3月10日、前橋市

 群馬県のご当地アイドル「あかぎ団」のメンバー加藤さやかさん(35)は約4年半前、脳腫瘍が原因で目がほぼ見えなくなった。手術前はステージに立てなくなることも覚悟したが、ファンやメンバーに支えられ復活。生活は一変したものの、息ぴったりのダンスで観客を魅了する。(共同通信=岩崎真夕)

 「群馬県から笑顔を発信、あかぎ団です!」。3月上旬、前橋市のライブハウス。加藤さんら9人が観客約100人の声援に応えた。ダンスの立ち位置がめまぐるしく変わる曲など9曲を披露。加藤さんも介助なしでステージを駆け巡った。本当に見えていないのかと驚くレベルの高さだ。

 アイドルは子どもの頃からの夢だった。「モーニング娘。」に憧れ、2011年にオーディションを突破してあかぎ団の1期生に。医療事務の仕事の傍ら地元で活動を重ね、県外では観客数万人のステージにも立った。

 異変を感じたのは2019年春ごろ。視界に砂嵐がかかるような感覚や顔の半分が動かなくなることがあった。ちょうど転職したばかりで「ストレスだろう」と思っていたが、夏ごろには体調がさらに悪化。原因が分からず、さまざまな診療科を受診する中でMRI検査を受け、直径8センチの脳腫瘍が見つかった。1週間後には誕生日ライブが控えていた。その後に予定する手術で治るはずだと前向きに捉えつつ「人生最後になるかもしれない」との思いで臨んだ。

 10月、8時間にわたる手術で腫瘍は除去したが、視力は2週間の入院期間中に急激に悪化した。右目はほぼ見えず、左目は目の端で黒、茶色、濃い茶色の3色をぼんやりと感じられる程度になった。

 手術後は目の見えづらさに加え、体力が落ちてスキップやジャンプもできない状態だった。日常生活もままならない中、ファンやメンバーがイベントごとにメッセージを込めて送ってくれた動画に励まされ、復帰を決めた。リハビリを経て、手術1カ月後には歌や演劇を再開。さらに「(複数人で踊る)フォーメーションダンスにどうしても入りたい」と希望し、2020年1月からはステージでダンスを再開した。

 新曲の振り付けはメンバーから手取り足取り説明してもらい、何度も修正して覚えた。「元々ダンスはぴっしりそろえたいタイプ」で、自分で鏡で確認できないのは大きなストレスだった。最初はステージから落ちたり、間違えてスピーカーに話しかけたり。そのうちにファンが振る光の動きなどで客席の方向が分かるようになった。

 ステージは「見えないことも関係なく楽しめる瞬間」。今後は演歌や声優など、新たな分野にも挑戦したいという。ハンディを抱えて気付いた「何でもない幸せのありがたさ」を発信していく。

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 脳腫瘍 脳や脳神経などにできる腫瘍の総称。国立がん研究センターの成田善孝医師によると、人口10万人当たりの発生数は23人程度で、そのうち約5分の1が「脳のがん」と言われる悪性脳腫瘍。片方の手足のまひやしびれ、言語障害などの症状が出る。大きくなると吐き気や起床時の頭痛を生じる。悪性の場合、数日で悪化することも珍しくなく、成田氏は「症状があれば早めに脳神経外科を受診してほしい」と勧めている。

取材に応じる「あかぎ団」メンバーの加藤さやかさん=2024年3月29日、前橋市
「あかぎ団」のライブで歌う加藤さやかさん(右から3人目)=2024年3月10日、前橋市

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