◆園側「子ども同士のじゃれあいの延長線上での出来事」
シャボン玉(写真は記事とは直接関係ありません)
請願を出した豊島区に住む父親によると、今年3月まで渋谷区内の私立幼稚園に在籍していた長男が昨年9月の夏休み明けに「幼稚園に行きたくない」と言い出し、複数の同級生の名前を挙げ「6月と7月、殴られたり蹴られたりした」と訴えた。以前から、夜中に泣き出すことなどがあった。父親は園を休ませて心療内科へ通院させた。 長男は10月に登園を再開したが、11月14日、同じ同級生に蹴られるなどされたと訴え、再び登園できなくなった。園は12月、「調査したが、いじめはなかった。子ども同士のじゃれあいの延長線上での出来事」と結論づけたという。 園は対策を求めた父親に退園を促したという。父親は納得できず、退園を拒否。長男を園に在籍させたまま、特例で短期入園できた豊島区内の保育園に3月末まで通園した。長男は4月から公立小に入学。現在は元気に登校している。◆「同じ被害に遭う子どもを出さないために」
父親は園との交渉と並行して、区や都、警察の窓口にも相談した。その際に、窓口の担当者が口にした言葉が気になっていた。 「幼稚園は、いじめの法律の対象外ですから」幼稚園でのいじめ防止対策強化を求める請願を提出するため、渋谷区議会へ向かう父親=3月11日、同区で
長男のいじめ問題に幼稚園が後ろ向きだったのは、「法律の壁」があったからでは。そう考えた父親は3月11日、渋谷区議会に請願を提出。(1)未就学児のいじめ実態調査
(2)幼稚園教職員らへの研修の実施
(3)いじめ被害・加害園児らへのケア
—などを区に求めた。 父親は取材に「幼稚園の対応には、今も納得していない。長男と同じ被害に遭う子どもを出さないために、何かできないかと思った」と請願の理由を話す。 請願は3月21日の本会議で全会一致で採択された。 父親の請願提出を支援した桑水流(くわずる)弓紀子渋谷区議は「幼稚園や保育園でも、いじめは起こりうる。制度のはざまで見過ごされ、苦しい思いをしている子どもたちを考えると、請願は大切な指摘だ。区内の実態調査など、未就学児のいじめ防止対策の強化を区に求めていきたい」と話している。 長男が通っていた幼稚園の園長は東京新聞の取材に「ご質問にはプライバシーにかかわる事項が含まれているので、回答は差し控える」とコメントした。
◆「教員だけでは対応が困難」
いじめ問題に詳しい内田良・名古屋大大学院教授(教育社会学)の話 この10年間、小学校では低学年のいじめ認知件数が急増している。いじめ対応の低年齢化が幼稚園にも及んでいるのだろう。低年齢のいじめは、事実認定が難しい。日常的にさまざまなけんかやトラブルがあるなか、それが被害児童本人ではなく、保護者からの申し出で発覚することも多い。さらに加害児童がそれを否定するような場合、教員は対応に苦慮する。 簡単に答えが出ない問題だが、渋谷区議会が採択した請願で「加害児童のケア」に焦点を当てた点は評価できる。加害児童には自分がしたことを認識してもらった上で、心理的なケア、家庭への支援をすることが大切だ。教員だけでは対応が困難で、外部の専門家がどう関与できるか、議論が必要だ。◆未就学児はなぜ対象外? いじめ防止対策推進法
いじめ防止対策推進法では、いじめ対策の対象を小中高校、幼稚部を除く特別支援学校などと規定。幼稚園や保育園などの未就学児は対象としていない。同法に関連する、渋谷区など自治体の条例も同様だ。 政府が4月に閣議決定した答弁書によると、文部科学省の幼稚園教育要領や同解説で、幼児期を、将来の善悪の判断につながる「やってよいことや悪いことの基本的な区別ができるようになる時期」と位置付けている。そのため、幼稚園で園児の行動を、いじめや暴力として扱うことは「慎重に考える必要がある」と指摘。よいことや悪いことがあることに気付き、思いやりを持つよう園児に指導することを求めている。 また答弁書では、いじめ防止対策推進法の対象を幼稚園児に広げるかについては、同法が議員立法であることから「まずは国会で議論する問題」としている。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。