川崎市の会社役員、藤井亮平容疑者(41)ら12人は、2023年6月までの2年近くの間に、実体のないペーパーカンパニーを設立したうえで、詐欺の被害者などから法人名義の口座に振り込まれた550万円余りを、別の口座に移してマネーロンダリング=資金洗浄を行ったとして、組織犯罪処罰法違反などの疑いで逮捕されました。

容疑者らのグループは、4000以上の口座を管理し、さまざまな犯罪グループから資金洗浄の依頼を受けていた疑いがあり、これらの口座には、少なくとも600億円が入金されていたということです。

容疑者らは、依頼元の犯罪グループ側と主にスマートフォンでやり取りしていたとみられるということですが、その際、やり取りの記録が消える秘匿性の高い通信アプリが複数使われていたことが捜査関係者への取材で分かりました。

また、容疑者らのグループ内でも、こうしたアプリが使われていて、警察が捜索で押収したスマートフォンを調べたところ、ほとんどが他人名義だったということです。

警察は、証拠が残らないように連絡をとっていたとみて、詳しいいきさつを調べています。

法人設立や口座開設 その手口は

警察によりますと、容疑者らの「リバトングループ」は、それぞれのメンバーが知人に依頼したり、SNS上で「副業として簡単に稼げる」と投稿したりして、ペーパーカンパニーの代表者となる人物を集めていたとみられています。

依頼に応じた人物たちは、指示を受けて法務局でうその登記を行ったうえで、実体のある法人を装って金融機関で口座を開設していました。

法人の名称や事業内容は、すべてグループのメンバーが考えたとみられていて、グループは、そのうえでパンフレットのような資料を用意したり、数百万円の資本金を「見せ金」として渡したりして、依頼に応じた人物に手続きをさせていた疑いがあるということです。

また、申請書類の確認や審査を行う法務局や、金融機関とのやり取りに備えて、想定問答が書かれた対応マニュアルも作成し、依頼に応じた人物に覚えさせていたということで、警察は、グループのメンバーが手続きに立ち会うことはなかったとみています。

数百万円の「見せ金」は、手続きが終わるとすぐに回収し、グループは通帳やキャッシュカードなどを預かったうえで口座を管理していました。

依頼に応じた人物には、毎月およそ2万円の報酬を支払うなどしていたということです。

こうして設立した法人は、およそ500、口座の数は合わせて4000以上に上るとみられています。

事件の経緯と資金の流れ

事件の端緒となったのは、2022年9月にオンラインカジノをめぐる、いわゆるマルチ商法を展開するグループが大阪府警に摘発されたことでした。

警察によりますと、このグループが使っていた法人名義の4つの口座について捜査したところ、「リバトングループ」の存在が浮上したということです。

警察は、2023年にグループの関係先を捜索してパソコンやスマートフォンなどを押収し、実態の解明を進めてきました。

その結果、「リバトングループ」が、3年ほど前から、さまざまな犯罪グループからの依頼を受け、資金洗浄を繰り返していた疑いがあることが分かったということです。

警察が調べたところ、管理していた4000以上の口座には、
▽特殊詐欺や投資詐欺などの被害金のほか
▽違法なオンラインカジノの賭け金なども振り込まれていました。

入金された額は、2023年6月までの半年間に合わせておよそ600億円に上るということです。

捜査関係者によりますと、「リバトングループ」は、入金があると、ほかの資金と合わせて別の複数の口座に次々に送金し、その後、多くを東南アジアの国に開設された法人の口座に移していた疑いがあるということです。

こうして資金洗浄を行ったうえで、最終的に依頼元の犯罪グループに金を戻していたとみられています。

「リバトングループ」は、入金された額の数%を手数料として受け取り、毎月およそ4億円の不正な利益を得ていた疑いがあるということです。

警察は、逮捕された12人のほかにも30人以上が関わっているとみていて、捜査関係者によりますと、このうち主要なメンバーを含む数人が、海外に出国した疑いがあるということです。

警察は、この数人について組織犯罪処罰違反などの疑いで逮捕状を取り、行方を捜査するとともに、グループの実態解明を進めています。

専門家「見抜くことは難しい 手口はかなり巧妙化」

今回の事件でペーパーカンパニーの口座が悪用されたことについて、資金洗浄の対策に詳しい鈴木正人弁護士は「口座開設の審査で確認する項目については金融機関である程度統一する必要があるが、犯罪グループがその内容を把握し、対策を取ってしまうと見抜くことは難しい。また、口座は正常な取引を目的に開設されるケースが圧倒的に多いので、手続きを過度に厳格にすると通常の商取引に支障が生じてしまい、金融機関にとってはそのバランスが難しい面もある」と指摘しています。

また、「法人口座は個人口座と比べて振り込みの限度額が大きいため、多額の入金があっても不正な取り引きと見抜くことは難しく、手口はかなり巧妙化している」としたうえで、「異常な取り引きを検知できるシステムを強化するなどの対策が必要だ」と話していました。

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