能登半島地震の被災地で、山あいに住む自宅避難者に支援物資を届けようと、中村神社(金沢市)宮司の多田晃郎(てるお)さん(53)と妻のきすみさん(46)がワゴン車で駆け回っている。避難所から自宅に戻る人が増え、なお厳しい生活を強いられ孤立する高齢者らを支えようと奔走している。(高橋雪花)

集落を巡り支援を続ける多田晃郞さん。後ろのキャンピングカーで現地へ行くこともある=金沢市中村町の中村神社で

◆現地でしか分からなかった困難

 石川県奥能登地方の山道をワゴン車が進む。たどり着いた小さな集落は、がれきが無造作に積み上げられ、静まり返っている。「この家、洗濯物があるし、人がいるかも」。訪ねると、住人の姿があった。車に積んだ小松菜やイチゴを見せ「もらってくれんかぁ」。多田さんは「どこに誰が住んでいるかは、インターネットにも出ていない。いつも行き当たりばったりですよ」と苦笑する。  支援物資の届け先の多くは、独居か夫婦で暮らす高齢者で「自分は家があるからまだ良い方や」と遠慮がちに口をそろえる。しかし、聞けば「家が片付かず、水道も使えない」「地震で傷んだ山道を通って買い物に行きづらい」といった困難を抱えている。給水所から重い水を持ち帰れず、近所の川の水を使う人や、車庫にブルーシートと布団を敷いて寝る人もいた。

◆「自分らが出て行ったら村が…」自宅避難者の思い

被災者にカット野菜などの支援物資を渡す多田きすみさん=石川県珠洲市三崎町で

 奥能登は神社と住民の結び付きが強い。交流がある神職から集落の被災者の情報を受け、自宅避難者を支援してきた。情報を頼りに現地へ行き、出会った住民の話を基に、また別の自宅避難者を探す。そして、会話の中でニーズを把握する。1月に始めた活動は、既に40回を超えたという。  長引く避難所生活の疲れなどを理由に、2月後半ごろからは、自宅に戻る人が目立ってきたと感じる。最近では野菜や果物が喜ばれるといい、仲間が集めた支援金で購入するなどしている。  出会った人々は支援が少なくても、住み慣れた土地に離れがたい思いを抱いている。ある男性は「自分らが出て行ったらこの村はなくなり、誰も戻ってこなくなる。一人でもおれば道も直してもらえる」と打ち明けた。  「待っとってくれるばあちゃんたちとのやりとりが楽しいから、全然疲れない」ときすみさん。多田さんは「地震発生当初のままの集落もあり、まだ復興が始まっていないように感じる。皆さんにも元気になってほしい」と語った。 

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