集落を巡り支援を続ける多田晃郞さん。後ろのキャンピングカーで現地へ行くこともある=金沢市中村町の中村神社で
◆現地でしか分からなかった困難
石川県奥能登地方の山道をワゴン車が進む。たどり着いた小さな集落は、がれきが無造作に積み上げられ、静まり返っている。「この家、洗濯物があるし、人がいるかも」。訪ねると、住人の姿があった。車に積んだ小松菜やイチゴを見せ「もらってくれんかぁ」。多田さんは「どこに誰が住んでいるかは、インターネットにも出ていない。いつも行き当たりばったりですよ」と苦笑する。 支援物資の届け先の多くは、独居か夫婦で暮らす高齢者で「自分は家があるからまだ良い方や」と遠慮がちに口をそろえる。しかし、聞けば「家が片付かず、水道も使えない」「地震で傷んだ山道を通って買い物に行きづらい」といった困難を抱えている。給水所から重い水を持ち帰れず、近所の川の水を使う人や、車庫にブルーシートと布団を敷いて寝る人もいた。◆「自分らが出て行ったら村が…」自宅避難者の思い
被災者にカット野菜などの支援物資を渡す多田きすみさん=石川県珠洲市三崎町で
奥能登は神社と住民の結び付きが強い。交流がある神職から集落の被災者の情報を受け、自宅避難者を支援してきた。情報を頼りに現地へ行き、出会った住民の話を基に、また別の自宅避難者を探す。そして、会話の中でニーズを把握する。1月に始めた活動は、既に40回を超えたという。 長引く避難所生活の疲れなどを理由に、2月後半ごろからは、自宅に戻る人が目立ってきたと感じる。最近では野菜や果物が喜ばれるといい、仲間が集めた支援金で購入するなどしている。 出会った人々は支援が少なくても、住み慣れた土地に離れがたい思いを抱いている。ある男性は「自分らが出て行ったらこの村はなくなり、誰も戻ってこなくなる。一人でもおれば道も直してもらえる」と打ち明けた。 「待っとってくれるばあちゃんたちとのやりとりが楽しいから、全然疲れない」ときすみさん。多田さんは「地震発生当初のままの集落もあり、まだ復興が始まっていないように感じる。皆さんにも元気になってほしい」と語った。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。