島の信号機は、年に1日だけ青に変わる。子どもたちが大きくなって古里を離れたとしても、交通ルールを守れるように――。島唯一の信号機には、そんな島民の思いが込められている。

 「青だ!」「右見て、左見て」

 三河湾に囲まれた人口約1600人の離島、日間賀島(愛知県南知多町)。21日午前、海を見渡せる東港の交差点に子どもたちの声が響いた。

 交通量が少ないこともあり、信号機はいつも赤と黄に点滅している。しかし年に1日だけ、交通安全教室の日に青信号がともる。この日は町立日間賀小3年と5年の児童約30人が信号を見ながら交差点を渡り、その様子を地域の人たちでつくる日間賀交通安全会のメンバーや愛知県警半田署員らが見守った。

 県警によると、信号機が設置されたのは30年前。「信号になじみが薄い島の子たちに実際の信号を使って安全教育を、という思いがあった」と杉浦和夫さん(75)は話す。島で生まれ育ち、交通安全会の会長を務めた。当時は人の背丈ほどの信号機と同じような機械を使って安全教室をしていたが、子どもから「本物の信号機ってどういうものなの」と聞かれ、県警などに何度も掛け合ったという。

 1994年に信号機が設置され、点灯式にはたくさんの島民が集まった。以来、島の子どもたちはこの信号機で交通ルールを学んできた。

 この日、自転車を引きながら横断歩道を渡った3年生の坂口史帆さんは「渡ろうとしたら赤になってしまって難しかった」と笑顔で話した。休みの日に島を出るときは親の運転する車に乗ることが多く、歩いて青信号を渡ったのは1、2回だという。大岩裕和教頭は「日々信号を使って生活していない島の子どもたちには、繰り返しの訓練で意識付けをしてほしい」と話した。

 地域の思いがこめられた信号機。青になるのは、また1年後だ。(奈良美里)

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