横浜市の住宅街で11日未明、激しく燃えた木造の一軒家には、87歳の身寄りのない女性が一人で暮らしていました。番組では、火災が起きる5日前にこの家の女性を取材していました。
■身寄りなし…71歳独居男性 死後への備え
神奈川県在住 中村行男さん(71)「楽しみがお風呂(銭湯)。(草むしり)やってから、すぐに直行だから」
「(Q.それちょっと癒やしというか?)そうそう癒やし」
4人兄弟の末っ子として育った中村さんは、借地に両親が建てた築70年の家で今は一人で暮らしています。母親の介護のため30年近く勤めた物流関連の会社を62歳で退職し、今は月に15万円ほどの年金を受け取っています。
去年、99歳だった母親を看取りました。父親は20年以上前に亡くなり、兄弟とは疎遠に。母親を亡くし、中村さんの“身寄り”はなくなりました。 中村さん「母親の(死後の)ことは俺ができるんだけど、最終的に自分ってどういうふうにすればいいの」 中村さんは、母親を介護するなかで自分自身が1人になった時、頼れる人がいないことに気付いたといいます。 OAGウェルピーR 黒澤史津乃代表
「こんにちは。よろしくお願いします」 中村さん
「俺、腰が痛いから下に座る」 黒澤代表
「えっ!大丈夫ですか」 中村さんが4年前から利用を始めたのが、身元保証サービスです。入院や高齢者施設への入所など様々な場面で必要となる保証人になってもらえるほか、死後は葬儀や火葬、納骨、契約の停止など、生前に取り決めた内容を代行してもらうことができます。
そのサービスを担う会社の代表が黒澤さんです。独り身の高齢者の支援に20年以上携わっています。
黒澤代表「すごくニーズとしては高まってきている。20年前は家族に頼らずに老後とその先の死を迎えるってすごく例外的だった。(今は)それが例外とは言えないくらいの規模になってる」
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■87歳女性に突然訪れた“身寄りなき日々”■87歳女性に突然訪れた“身寄りなき日々”
黒澤代表が特に気に掛ける女性が横浜市にいました。取材スタッフにも「あなたここに掛けて」と声を掛け、気遣いを見せる水野さん(仮名・87)。夫はすでに亡くなり、築40年以上の借家に一人で暮らしています。
水野さんは歩くことが困難なため家の中を伝い歩きできる程度で、要介護3の認定を受けています。買い物や料理はヘルパーが手伝い、やっと日々の暮らしが成り立っています。 黒澤代表「こちらが息子さん」
「(Q.いつ亡くなられた?)1月の終わりです、今年の」
水野さんの一人息子は2018年、徐々に体が動かなくなる難病を発症しました。ほぼ寝たきり状態だったものの、意識ははっきりしていて、動く指先でパソコンを操作し、水野さんの年金口座や家計などを管理していました。
しかし、今年1月に病気が進行し、急死。水野さんは身寄りをなくしました。
水野さん「こっちにもいっぱい。前、見せたことあるけどさ」 黒澤代表
「これは初めて、これ見るの」 水野さん
「これが主人で、これが息子。赤ん坊の時、抱っこしてね」
水野さんの毎日の楽しみは、元気な息子の姿がたくさん詰まったアルバムを眺めること。ただ、息子がいない生活に寂しさは隠せません。
水野さん「(写真を見て)一人でおしゃべりしてるの。息子にねもっと元気でお母さんと一緒にいたかったね、なんか言ったりさ。帰ってきてやとかさ」 水野さんは時折ハンカチで涙をぬぐいながら、楽しそうに息子の思い出を語っていました。 黒澤代表
「寂しいっていうのもある?ここにいて」 水野さん
「寂しい時は、夜。トイレ行く時でも、息子の部屋ポンポンと叩いて『もう寝てるか?』とかさ」 黒澤代表
「聞きに行くの、今も?」 水野さん
「今も」 黒澤代表
「だって、これ(去年の)12月ですよ。4、5カ月前の話、こんなに元気だったのにね」
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■息子の納骨費用が…支援動きの矢先に■息子の納骨費用が…支援動きの矢先に
水野さんには8人の兄弟がいましたが、全員亡くなっていて、他の親族との連絡は途絶えています。身寄りのない水野さんに代わり、黒澤さんが息子の火葬や死後の手続きを済ませました。 黒澤代表「まだここにお骨があって、なかなか経済的な事情があって今まだここに」
水野さんの夫が入る墓は近所の寺にありますが、息子の納骨費用が捻出できず、3カ月以上経った取材当日も遺骨は仏壇の脇に置かれたままでした。
多くの不安を抱えたままの生活で、水野さんは年金で利用料をまかなえる高齢者施設への入所も考えましたが、入所の際に施設が求める身元保証人は誰もいません。そこで、この春から黒澤さんは自身の会社を水野さんの身元を保証する成年後見人としての登録手続きを始めていました。
黒澤代表「正式に世話をする人っていうのを裁判所が後見人っていって決めるんだけど、私が立候補してるから」 水野さん
「ありがとうね。優しいね」 黒澤代表
「立候補してるから、やってもいい?」 水野さん
「やってくれる?私も87歳のおばあちゃんだからさ。いつ何かあってもね」 黒澤代表
「そんな、まだまだお元気だけどね。安心して暮らせるようにしなきゃでしょ。安心して暮らせるようにするから。息子さんに頼まれてるから。お母さんのことを頼むって」 そう声を掛け、手を取りながら別れた5日後、黒澤さんの元に水野さんのヘルパーから「水野さんの家で火事」との連絡が入りました。
かつて水野さんが暮らしていた家の原型はなく、屋根は崩れ落ち、真っ黒に焼け焦げた骨組みがむき出しになっています。焼け跡からは1人の遺体が見つかりました。
警察は、亡くなったのは水野さん本人とみていますが、発生から10日が経っても、身元は明らかになっていません。水野さんが一人暮らしで身寄りがないことや、建物の損傷が激しいことから、身元を裏付けるものがなく時間がかかっているといいます。火災の原因も未だ分かっていません。
19日、火災発生後はじめて現場を訪れた黒澤さんは「ちょっと…言葉がないですね」と話しました。本来であれば、成年後見人となる手続きのため、20日に裁判所の職員と一緒に改めて水野さん宅を訪れる予定で、およそ1カ月後には手続きが終わるはずでした。
しかし、手続きが終わる前に火災が起きてしまったため、黒澤さんには遺体の引き取りや葬儀をあげるための権限がありません。 黒澤代表「もう本当に手出しができない状態。こういうふうに“間に合わなかった”というケースは私の中では初めてなので、もどかしさというか、無力感というか、そこを感じますね。備えを元気なうちにしておいてもらうのが、いかに大事なのかと思います」
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2024年5月21日放送分より)
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