持病で働けず、生活保護を受けている川口市の男性(60)が、約2年前に障害者就労支援施設で働いて得た給与分の保護費の返還を今春になって突然市から請求され、当惑している。当時の収入は月額3000〜7000円で、本来は保護費を削られる対象にならない金額。専門家も「不自然な返還請求だ」と疑問視する。(出田阿生)

◆白紙とペンを渡され、言う通りに謝罪文を書けと…

 男性は消防設備の保守管理の仕事をしていたが、てんかんの持病があり、心臓病も発症。働けなくなり、13年前から生活保護を受け始めた。2021年12月〜22年4月の5カ月間、市の委託事業者から紹介された障害者就労支援B型事業所で働いた。月の収入は3000〜7000円で、総収入は計2万6000円だった。

令和3(2021)年12月~翌年4月までの毎月の給与が記載された通帳を手にする男性(画像を一部加工しています)

 生活保護制度では、受給者の働く意欲を促進するため、収入が月額1万5000円未満なら申告すれば全額控除対象とし、保護費は減額されない。男性によると、体調悪化で仕事を辞めた22年秋、年1回提出する収入申告書に、仕事で得た給与額を記入して市に郵送した。すると市の担当職員から対面で「働いていたんだね」と確認され、給与振込額が記された通帳のコピーも渡したという。  その後、職員とは5回ほど面談したが何も言われず、1年以上たった今年3月下旬に突然呼び出された。白紙とペンを渡され、「就労を市に報告していなかった」という趣旨の謝罪文を、職員の言うとおりに書くように指示された。男性は「申告書を出している」と抵抗したが、てんかん発作の薬で頭がぼんやりしていた上、職員に「こちらで通帳のコピーは持っている。書いても何ともないから」と促され、従ったという。

◆人事異動で担当者が代わったら

 ところが、4月の人事異動で担当者が代わると、収入の全額分を返還するよう求める通知が届いた。驚いて男性が理由を聞くと、担当者は「働いていた期間中に就労の申告がなかった」ことが「保護費の不正受給」に当たると説明したという。  男性は「以前も別の施設で働いて控除を受けたことがあり、今回も全額控除になると知っていた。隠すつもりは全くなく申告した。1年以上何も言われず、手続きは済んだと思っていたのに」と話す。現在、保護費以外に収入はなく「自分にとって2万6000円は大金で、払うのは難しい。いじめのようだ」と訴える。

◆そもそも全額控除となる収入額なのに

 市の生活保護の担当者は取材に「個別の案件には答えられない」と回答した。

厚生労働省が入る庁舎(資料写真)

 厚生労働省保護課は「一般論として、意図的に申告しなかった場合は控除の対象にならず返還請求することもあり得るが、やむを得ない理由があるなど悪質でなければ例外と判断され、返還は求めない」と説明する。  生活保護問題に詳しい小林哲彦弁護士は「約2年前の収入を、担当者の交代をきっかけに市が突如として返還請求したこと自体が不自然だ。そもそも全額控除となる収入額であり、男性がわざと隠したとは考えにくい。うそをついたり文書を偽造したりなど悪質でなければ不正受給といえないはずだ」と指摘している。 

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