地方には就職したいと思えるようなベンチャー企業が、都市部に比べてまだまだ少ないという課題があります(写真:アン・デオール/PIXTA)日本の地方企業からは、世界がときめく商品・サービスが数多く生まれています。日本の各地域にはそれぞれのポテンシャルがあり、「そこでしか生み出すことのできない価値」にあふれています。一方で、戦後の政策ともあいまって、経済の機能は首都圏に集中し、人口も同じく首都圏に集っています。そして、多くの地方企業が、人材やIT活用のノウハウの不足、資金調達の難しさ、人口減少や過疎化による商圏の縮小、高齢化による後継者問題など、数多くの課題を抱えています。しかし、その解決方法はすでに示されています。『LOCAL GROWTH 独自性を活かした成長拡大戦略』(クロスメディア・パブリッシング)では、4人の著者が専門的な知見から、地方企業の成長に必要なノウハウを語っています。日本にあるすべての企業が、自社の持つ価値を発信できるようになる。そして、日本中、世界中に暮らす人たちに、自慢の商品を届けることができるようになる。洗練されたサービスを通して心ときめく体験を提供し、そこに日本中、世界中から人が訪れるようになる。「地方発全国、日本発世界」の企業が、この国に1つでも多く生まれていくためには、何が必要なのでしょうか。

就職したい企業が地方に少ない

地方には就職したいと思えるようなベンチャー企業が、都市部に比べてまだまだ少ないという課題があります。

地方に魅力的なベンチャー企業が多数存在すれば、活性化につながるでしょう。ベンチャー企業が雇用の受け皿としての役割はもちろん、新しいことに挑戦し続けるムードも、活性化の要素となります。

そのためにも起業家の育成やベンチャー企業の支援は、地方には特に必要ではないかと思います。

いままでは、大企業や外資の工場などを誘致することが、地方活性化のためのソリューションの1つでした。そのことで実際に多くの自治体で雇用や人口が増加しており、有効な打ち手であることは間違いありません。

今後は、大企業誘致に加えて、「地域のベンチャー企業の育成」も有効な打ち手になるでしょう。伸長するベンチャー企業は地元の雇用を引き受け、県外からの移転も促してくれるはずです。

「魅力的だな」「かっこいいな」「働きたいな」と思えるようなベンチャー企業が地域にたくさん生まれれば、一度都市部に出ていった後でも、地方(地元)に戻って働きたいと考える人が増えるのではないでしょうか。

特に若い人ほど、地元に戻ってきてくれる比率が高いかもしれません。

開業率が他国より極めて低い日本

ただし、現状の日本は開業率が他国に比べて極めて低い状態です。

(画像:『LOCAL GROWTH 独自性を活かした成長拡大戦略』より)

また、上場企業の53%が東京に一極集中しています(『会社四季報オンライン』より。『会社四季報』2021年1集(新春号)に掲載の本社所在地を用いて集計)。今後、地方からより多くのベンチャー企業が生まれていくためには、育成と支援の仕組みを整える必要があると考えています。

そのため、地方としてはまず、先行している東京の成功事例や失敗事例を研究し、足りないものが何かを理解するのがいいと思います。

そして研究や分析と同時に、東京のネットワークの中にも入り、不足を埋められるような打ち手など、有効な情報を得ることが大切になってきます。その情報を分析・整理したうえで、いよいよ地域の独自性を打ち出していくわけです。

その方針に従って、地域が一体となってベンチャー育成をしていくのが目指すべき方向性だと考えます。

たとえば、先輩経営者、起業家ネットワーク、地方の大企業、地方自治体、地方大学、地方銀行、ベンチャーキャピタル、士業の方々など、地域の人たちが一体となった大応援団の形成です。

地域全体で「地元ベンチャー企業を育成していこう!」というコンセンサスを取り、こうしたエコシステムを構築し、時間をかけて磨いていく。それができて初めて、起業する人が増えたり、ベンチャー企業が成長したりして、移住者増加や関係人口増加などのビジョン実現に近づくのだと思います。

起業や経営という面において、地方と都市部を比べると、もちろん都市部のほうが優れた面はあります。

一方で、地方で起業することのメリットも多々あります。

1つ目は、大応援団が形成できることです。現在でも、全国にはベンチャー育成に積極的なエリアがたくさんあります。応援団は起業家を孤独から解放し、大きな心の支えになります。こうしたつながりの強さは、地方の特権です。

2つ目は、その地域特有の特産品や風習などを考慮した、独自のサービス開発ができる点です。独自化・差別化は戦略的にも重要です。市場での地位も築きやすくなります。

3つ目は、コストメリットです。地方では東京などの都市部よりも相対的にコストが低いので、利益が出やすい構造を作ることができます。このメリットを、経営者は十分に活かすべきでしょう。

4つ目は、リモート環境の発展により人材獲得が容易になった点です。新型コロナ禍を経てリモートワークが普及したことで、地域企業でも以前と比べて人材を採用しやすくなりました。

たとえば、「東京を離れることは難しいけれど、地方のあのベンチャー企業で働きたい」と考えている人にもオファーできるようになっています。

また、「副業で地方企業を支援したい」という意志を持つ人材も多数います。つまり経営者がリモートワークにおけるマネジメントを実践できれば、地元人材だけでなく、全国から優秀な人材をチームに迎えることのできる可能性が高まるのです。

こうした点から、同じビジネスで起業するにしても、地方のほうがメリットを享受できる環境にあるのかもしれません。

地方の優位性を捉えつつ、新しい波を捉え、新しい経営スキルを身につけ挑戦する。一昔前とは異なる資源獲得が可能になっている時代だと思います。

地域全体で盛り上げる

地方のメリットを活かし、地域全体で盛り上げていく動きは、これからますます重要になってくるでしょう。その視点の1つが、大学との連携であり、起業家ネットワークの存在ではないでしょうか。

アメリカでは、西海岸のシリコンバレーでIT産業が爆発的に成長しました。それには、優秀なエンジニアを生み出すスタンフォード大学の存在が、とても大きいといわれています。

当然ですが、ハーバード大学だけに優秀な学生が集まっているわけではありません。日本でも、優秀な人材がすべて東京大学に集まっているわけではなく、地方にも優れた大学がたくさんあり、優秀な学生もたくさんいます。

たとえば、宇都宮大学は2024年度に、データサイエンスと経営を一体的に学ぶ、データサイエンス経営学部を新設します。

宇都宮大学はロボティクス、オプティクス(光学)、バイオといった分野でトップレベルの研究をしていましたが、ビジネスに重点を置いた教育にも力を入れ始めています。

大学発ベンチャーの育成も視野に入れ、ベンチャービジネス論や大学院生向けにアントレプレナーシップ(起業家精神)演習科目といった講座を開く予定だそうです。ベンチャー企業がこのような大学との連携などが進めば、人材確保やサービス開発にも役立つはずです。

さらに、こうした連携の動きは、地元の高校生や大学生のキャリア選択に、ポジティブな影響を及ぼす可能性もあります。

これまで都市部への大学進学が主流とされていたところから、地元に新しい可能性を見出し、地元に残る決断をする学生が増えるかもしれません。卒業生が地元起業家となっていく動きも実現すれば、地域全体を盛り上げる動きにつながるのではないでしょうか。

ネットワークで横のつながりを得る

加えて、起業家ネットワークも起業家育成においては欠かせない要素です。

『LOCAL GROWTH 独自性を活かした成長拡大戦略』(クロスメディアパブリッシング)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

特に地域の起業家にとって、EO(Entrepreneurs' Organization:起業家機構)のような組織はもちろん、徳島県や京都府などから全国に広がるイノベーションベース、さらには全国で展開する商工会議所やニュービジネス協議会などの存在は大きな資産です。

これらのネットワークを通じてベンチャー企業の経営者たちは、横のつながりを得ることによって、学ぶ機会と決断を下す勇気を手に入れることができます。また、成長したいという内発的動機も得ることもできるでしょう。

それと、先輩経営者や教授などの成功者や有識者の方々にメンターとなってもらい、経験のシェアや助言をしてもらうことも有効です。

壁打ちしてもらう、あるいは人を紹介してもらう。そのような機会を得られるだけで、若い経営者は多くを学び、どんどん成長していきます。そこから全国展開、世界展開に繋がっていく可能性も十分にあるはずです。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。