18日に開かれた「全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」で、審査員を務めた。私は手話を読み取ることはできない。それでも、予選を勝ち抜いた10人の高校生が、なめらかで力強い手の動きと、豊かな表情で訴える姿に、心を揺さぶられた。

 今年のテーマは「未来を拓(ひら)く若者の役割」と「挑戦と失敗から学んだこと」。耳が聞こえない、聞こえにくい自分の体験、耳の不自由な家族とのやりとり、手話通訳の経験――。時に偏見や違和感を感じながら、様々な挑戦にかける強い思いが伝わってきた。

 山梨県北杜市立甲陵高校2年の前橋真子さんは、難聴の妹と話したいと手話を覚えた。だが、妹との手話での会話を「魔法使いみたい」と言われて衝撃を受け、「姉」をやめたいと思ったことがあると明かした。

 つらいことも家族で乗り越えてきた経験が自分を優しく強くした、と今は思えるようになった。最近では、難聴の子が参加する、音楽に合わせて体を動かす「リトミック」の活動に、ボランティアとして参加しているという。

 前橋さんのスピーチに、「令和」の手話表現を紹介するくだりがあった。片手を前に動かしながら、すぼめた指を緩やかに開く。令和の典拠となった「万葉集」の梅の花の歌の序文から、「未来に花開くイメージ」で作られたのだそうだ。

 だが、小中高の現状に目を転じると、教員は疲弊し、不登校やいじめ、自殺などが深刻化している。改善するには、国が教育予算を大きく増やし、教員や支援スタッフ、スクールカウンセラーなどを増員する必要がある。心と体に余裕を持った教員らが、子どもや保護者とじっくりと向き合う。それこそが、様々な問題を解決へと向かわせる第一歩となるからだ。

 偏見を減らし、多様性を認め合える社会へ。スピーチで、高校生たちはそう訴えた。こうした若者たちが主役となる社会が、未来に花開くように。そのためには、先進国で最低水準の教育予算の大幅な増加に政府も挑戦していく必要がある。(増谷文生)

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